幼年連祷

詩集『幼年連祷』

吉原幸子の第一詩集『幼年連祷』は、1964年5月に歴程社から刊行されました。並製フランス装、貼函入りの158ページで、イラストを矢野真、レタリングを金森馨が担当しました。この詩集には、1956年から1962年までに書かれた68編の詩が収録されており、童謡のような語り口で、吉原自身の幼年時代を想像させます。

吉原自身は、この詩集を「こどものわたし」の本であると述べており、第二詩集『夏の墓』で書いた「をんなのわたし」と対をなすものとして位置づけています。また、1964年には第4回室生犀星賞を受賞し、1976年7月には思潮社から新装版が刊行されました。

合唱組曲『幼年連祷』

作曲家新実徳英が吉原の詩に関心を持ったきっかけは、1976年度NHK全国学校音楽コンクール高等学校の部課題曲「旅に出よう」でした。この曲の作詞を吉原が担当しており、新実は彼女の詩の世界に魅了されました。

1977年秋、新実は詩集『幼年連祷』の中から「花」を選び、混声合唱曲として作曲しました。この曲は、同年の笹川賞創作曲コンクール合唱部門で1位を受賞しました。当時、新実は「普通の詩、抒情的な詩に抒情的な音楽をつけることはできない」と考えていましたが、「花」の入選を機に考えを改め、この曲を5曲からなる組曲にすることを構想しました。

1980年7月25日、新宿文化センターホールにて、松原混声合唱団、指揮＝関屋晋、ピアノ＝田中瑤子によって組曲全曲が初演されました。その後、『幼年連祷』は多くの合唱団のレパートリーとして演奏されるようになりました。

新実自身は、『幼年連祷』を「混声合唱ということを非常に強く意識して書いた作品」であり、「他の形態に直らない」と語っています。また、同声合唱への編曲依頼を何度も断り続けていることからも、この作品への強いこだわりがうかがえます。

後に、福永陽一郎によって男声合唱への編曲が試みられましたが、出版には至っていません。

組曲『幼年連祷』は、他の作曲家にも影響を与えています。東京藝術大学で新実の後輩だった西村朗は、もともと歌曲や合唱曲に興味が薄かったものの、「まぼろしの薔薇」（作詩:大手拓次、1984年）で和声的な様式を取り入れました。西村自身も『幼年連祷』の影響を認めています。

新実と吉原のコンビによる合唱曲は他にも、「愛」「HELP!」「日没」「翔ぶ」に曲をつけた女声合唱とピアノのための「失われた時への挽歌」（1984年）、女声合唱、三絃、コントラバスのための「をとこ・をんな」（1988年）があります。

組曲構成

組曲は全5曲で構成されており、各曲の題名は元となった詩に基づいています。

1. 花（ニ短調）
2. 不眠（無調）
3. 憧れ（ト長調）
4. 熱（ホ長調）
5. 喪失（ニ短調）

参考文献

吉原幸子『幼年連祷』歴程社、1964
新実徳英『混声合唱組曲「幼年連祷」』カワイ出版、1981
『吉原幸子展図録』前橋文学館、1996
「新・日本の作曲家シリーズ その人と作品と 2 新実徳英」『ハーモニー』109号（全日本合唱連盟、1999年）
「新・作曲家シリーズ 9 西村朗」『ハーモニー』117号（全日本合唱連盟、2001年）

外部リンク

吉原幸子 (SachikoYoshihara1932) - Facebook - 資料、草稿写真などを公開
* 吉原幸子 - ウェイバックマシン - どの詩に誰が作曲したか

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