幽霊語

幽霊語とは何か

幽霊語（ゆうれいご、英語: ghost word）とは、辞書やそれに準じた権威ある参考図書に掲載されていながら、実際にはほとんど、あるいは全く使用例がない、無意味な単語のことです。幽霊形（ゆうれいけい、英語: ghost form）とも呼ばれます。

これらの単語は、誤った解釈、誤った発音、誤読など、何らかの誤りに起因することが一般的です。また、タイポグラフィ（誤植）や言語学上の混同によって生じる場合もあります。

一度、権威ある形で出版されると、その後、幽霊語が広く使われるようになることがあります。そして、一旦使用され始めると、それを止めるには長い時間を要することも少なくありません。

幽霊語の起源

「ghost words」という表現を最初に公に用いたのは、1886年に言語学協会会長として年次講演を行ったウォルター・ウィリアム・スキート教授でした。スキート教授は、自身の講演の中で、誤植によって生まれた単語の事例をいくつか紹介しました。

例えば、彼は「kimes」という単語が、「knives」（ナイフの複数形）の誤植であることを指摘しました。しかし、この誤植が広まり、実際に「kimes」という単語が使われることがあると述べています。また、「morse」という単語が、『修道院』の出版事例において誤って印刷された例も紹介しています。

さまざまな幽霊語の事例

スキート教授は、上記の講演の中で、さらに百件ほどの事例を紹介しています。その他にも、以下のような事例が挙げられます。

στήτη: ホメーロスのギリシア語で「女性」を意味する単語と誤解された例。『イリアス』の一節を、動詞の語形変化の知識がない者が誤読したことから生まれたとされています。
セーラム (Sarum): 中世の手稿で、ソールズベリーを意味する略記「Sar~」を地名と誤解したことから生じた例です。
Dord: 『ウェブスター新国際辞典第2版』に誤って掲載された単語。「D or d」（「Dまたはd」）というインデックスカードが誤って整理されたことが原因です。
Phantomnation: 『オックスフォード[[英語辞典]]』に掲載された幽霊語で、「幽霊の出現、幻」という意味で、アレキサンダー・ポープの翻訳の誤解が元となっています。
vicious hair: 研究社の『新和英大辞典』に誤訳として掲載されていた「癖毛」の訳語です。長年にわたり、辞書利用者がこの誤りを写し続け、美容外科の広告にまで使われました。
彁 (など): JIS X 0208の規格に含まれているものの、実際の使用例が見つからない漢字。おそらくは誤って規格に含まれたと考えられています。
Hsigo: 光学文字認識が、中国の神話に登場する生き物「hsiao（囂）」を誤認したことで生まれた単語です。
feamyng: フェレットの集合名詞として辞書に記載されているが、綴り字の間違いが重ねられた結果生まれた言葉であるとされています。

不確かな幽霊語の事例

新造語の中には、起源がはっきりしないものや、無教養から生まれた幽霊語に由来する可能性のあるものもあります。例えば、「OK」という単語も、そうした可能性を指摘されています。また、プンパーニッケル（パンの一種）の語源に関するナポレオンの逸話や、「クイズ」という単語も、意図的な虚偽語源である可能性が指摘されています。

逆成語との違い

近年、「幽霊語」という用語が、実在する単語から派生した新しい言葉を指して用いられることがありますが、これは不正確です。このように派生する単語は、逆成語と呼ばれます。例えば、「beforemath」は「aftermath」から派生した逆成語であり、幽霊語ではありません。

幽霊語の持つ意味

幽霊語や、これに似た誤りや創作の産物は、辞書編集者にとって新語や言語学的混乱の源として厄介な存在です。しかし、同時に、言語学的な困難や娯楽の対象としても捉えられています。これらの語彙の多くは消えていくと考えられますが、一般的に用いられる語彙に受け入れられた単語は、何らかの必要性や意味があったと考えられます。

構文の幽霊形

権威ある文法書に記載された構文が、実は実例が見つからない架空のものであった場合、その構文が幽霊形であったと表現されることがあります。これは、言語学における更なる幽霊語の側面を示しています。

まとめ

幽霊語は、言語の誤りや変化、誤解が生み出す興味深い現象です。辞書や文法書といった権威ある情報源にも誤りが存在し、それが時に広まってしまうことを示しています。幽霊語の存在は、言語というものが常に変化し、不確実性を持っていること、そして、私たちがいかに言葉を使い、解釈しているのかを考えさせるきっかけとなります。

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