広岡敬一

広岡敬一：昭和風俗を写した異才のジャーナリスト

広岡敬一（1921年6月24日 - 2004年6月21日）は、その生涯を通じて日本の性風俗の変遷を見つめ続けたジャーナリスト、そして写真家でした。彼は「風俗系ライターの草分け」として知られ、タブーとされてきた世界を独自の視点で捉え、社会に大きな影響を与えました。

満州から戦後日本へ

広岡は中国の長春で生まれ、満州映画協会で撮影技師としてキャリアをスタートさせました。第二次世界大戦中は陸軍特攻隊写真班員として従軍。終戦後、1948年に日本へ引き揚げます。戦後の混乱期には、吉原の赤線で女性たちの写真を撮影しながら生計を立てました。その後、旧厚生省広報部の嘱託職員やラジオ局、東京毎夕新聞などを経て、浅草のストリップ劇場の専属カメラマンとして働くことになります。

風俗ライターとしての覚醒

1970年代に入ると、広岡はフリーランスのジャーナリストとして活動を始めます。彼は当時「トルコ風呂」と呼ばれていたソープランドに着目し、「トルコロジスト」という肩書きを自ら名乗り、その実態を週刊誌などで発表しました。彼の記事や著作は大きな反響を呼び、特に滋賀県大津市雄琴の風俗街を取材した『ちろりん村顛末記』（1980年）は、社会に大きな衝撃を与え、映画化もされました。

晩年と遺産

広岡は2003年に癌と診断されますが、延命治療を拒否し、翌年肺癌で亡くなりました。彼の遺体は献体されています。2005年制作のドキュメンタリー映画『ヨコハマメリー』には、晩年の広岡が証言者として出演しており、彼の貴重な証言を映像で見ることができます。

広岡敬一は、自ら撮影した多数の写真を著作に掲載し、昭和の性風俗を記録しました。彼の作品は、単なる記録に留まらず、そこに生きる人々の感情や社会の歪みを浮き彫りにしています。広岡の視点は、現代社会においても重要な示唆を与え続けています。

主な著作

トルコロジー : トルコ風呂専門記者の報告、晩聲社、1978年
ちろりん村顛末記、朝日新聞社、1980年
トルコロジストのせんちめんたるじゃ～にい、現代書林、1981年
現代性風俗史〈トルコ風呂記者全力疾走〉、メルヘン企画社、1983年
泡の天使たち、講談社、1984年
浅草行進曲、講談社、1990年
ストリップ慕情 : 浅草・吉原ロマネスク、講談社（講談社文庫）、1993年
戦後性風俗大系 : わが女神たち、朝日出版社、2000年
戦後性風俗大系 : わが女神たち、小学館（小学館文庫）、2007年
昭和色街美人帖 : 私の<赤線時代>、自由国民社、2001年
性風俗写真館 トルコ・ソープ時代編、イースト・プレス、2003年
性風俗写真館 2 赤線・ストリップ時代編、イースト・プレス、2003年

広岡敬一は、日本の裏社会、タブーとされた性風俗の世界に足を踏み入れ、その実態を世に知らしめたパイオニアでした。彼の功績は、社会の光と影を見つめ、記録し、後世に伝えるというジャーナリズムの重要な役割を示しています。

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