広島臨時仮議事堂

広島臨時仮議事堂：幻の首都に現れた仮設の国会議事堂

広島臨時仮議事堂は、1894年（明治27年）の日清戦争開戦に伴い、一時的に首都機能が広島に移転した際に、帝国議会（第7回帝国議会）の議場として広島市中心部に建設された仮設の建物です。設計者は妻木頼黄で、設計から竣工までわずか20日間という異例のスピードで建設されました。東京以外で唯一国会議事堂が建てられた場所であり、日本の歴史において特筆すべき出来事でした。

建設の経緯

日清戦争の勃発により、当時の山陽鉄道の西の終点であった広島駅や、第5師団の所在地、そして軍港としての機能が整備されていた宇品港（広島港）があった広島は、戦略上の要衝として注目されました。そのため、大本営が広島に置かれ、明治天皇や政府高官も移り住んだことで、広島は事実上の首都として機能することになったのです。そして、同年9月22日に帝国議会を広島で開催する詔書が公布され、急遽議事堂の建設が必要となりました。

伊藤博文首相の指示を受けた鍋島幹広島県知事は、議事堂の候補地を調査しました。過去に仮の県庁舎として使用された仏護寺（現在の本願寺広島別院）は手狭であると判断され、新たに議事堂を建設することが決定しました。建設地は、広島市の中心部である西練兵場の南東端、現在の中国電力基町ビル敷地に決定しました。ここは、かつて広島城の外堀近くに位置し、廃藩置県後に練兵場として整備された場所でした。

議事堂の概要とその後

1894年10月14日、仮議事堂は竣工し、翌15日に議員が召集され、18日に第7回帝国議会が開会されました。会期はわずか4日間で、臨時軍事費予算案などが審議されました。日清戦争終結後、明治天皇は1895年（明治28年）4月27日に東京へ戻り、議事堂は陸軍の仮施設として転用された後、1898年（明治31年）に取り壊されました。

構造の特徴

設計者の妻木頼黄は、短期間での建設を可能にするため、いくつかの工夫を凝らしました。基礎工事を省略した掘立造や、建築資材として電信柱を転用するなどの工夫が見られました。内装も簡略化され、壁面は紺と白の布で横縞模様がつけられました。これは陣屋幕をイメージしたもので、当時の状況を反映したものでした。

現在の状況

議事堂が撤去された後、跡地は再び西練兵場として使用されました。1945年の広島市への原子爆弾投下により、周辺地域は壊滅的な被害を受けましたが、戦後の都市開発によって復興し、現在はビルが立ち並んでいます。かつて議事堂が建っていた場所には、「広島臨時帝国議会議事堂跡碑」が建てられています。また、取り壊しの際に便殿のみ比治山に移築されましたが、こちらも原爆で失われ現存していません。

まとめ

広島臨時仮議事堂は、日清戦争という激動の時代に、首都機能を担った広島の象徴として建設された貴重な歴史的建造物でした。短期間での建設や、資材の転用など、当時の状況を反映した建築技術は、日本の建築史においても特筆すべき事例と言えるでしょう。現在、その姿を見ることはできませんが、跡地に建てられた記念碑が、その存在を静かに語り継いでいます。

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