府院の争い

府院の争い：中華民国初期の政治闘争

府院の争いとは、1916年から1917年にかけて、中華民国（北洋政府）初期に発生した、大総統の黎元洪と国務総理の段祺瑞の間で行われた政治闘争です。総統府と国務院の対立から「府院の争い」と呼ばれています。表面的には政策の衝突として現れますが、その根底には、当時の政治体制や、黎元洪と段祺瑞の個人的な対立がありました。

争いの背景

1916年6月、袁世凱が病死すると、黎元洪が大総統に就任しました。本来であれば、北洋軍閥の重鎮である段祺瑞や馮国璋、徐世昌らが後継者となるべきでしたが、袁世凱の帝政復活に反対していた南方勢力や、北洋軍閥内の派閥対立を考慮し、黎元洪が選ばれました。しかし、北洋軍閥は黎元洪を傀儡と考えており、政治の実権は国務卿が握るべきだと考えていました。これに対し、黎元洪は傀儡であることを嫌い、大総統としての権限を行使しようとしたため、対立が激化しました。

争いの経過

この時期の争いは、政策対立の形を取りますが、その背景には黎元洪と段祺瑞の個人的な相性の問題がありました。段祺瑞は「袁世凱幕下の生え抜き」としての自負と軍事力を背景に、黎元洪を「成り上がり者」と見下していました。黎元洪も、段祺瑞の態度に不満を抱いており、この二つの対立構図が「府院の争い」を構成しました。

約法問題

当時の約法（臨時憲法）には、1912年の「中華民国臨時約法」と、1914年の「中華民国約法（袁記約法）」の2つがありました。黎元洪の大総統就任にあたり、どちらの約法を基本とするかが問題となりました。護国戦争を起こした南方勢力は、袁記約法を無効とし、旧約法を正統と主張しました。これに対し、段祺瑞は新約法を支持しました。論争の末、黎元洪は旧約法を採用し、国会が召集されました。段祺瑞は、旧約法に基づいて国務総理に就任しました。

国務院人事問題

段祺瑞が腹心の徐樹錚を国務院秘書長に任命しようとした際、黎元洪は猛烈に反対しました。これは、政策の問題というより、両者の人間関係が原因でした。最終的には徐世昌の仲介により、徐樹錚の就任は承認されました。しかし、国務院の専制化を恐れた黎元洪は、馮国璋を副大総統に任命しました。

対独参戦問題

第一次世界大戦勃発当初、中華民国は中立を保っていましたが、アメリカがドイツとの断交を宣言すると、国内でも参戦を主張する声が上がりました。段祺瑞は参戦を主張しましたが、黎元洪は消極的でした。段祺瑞は内閣総辞職を断行し、最終的にドイツとの国交を断絶することで決着しました。

督軍団による国会干渉問題

参戦を主張する段祺瑞は、国会に圧力をかけるために、督軍団を利用しました。国会を包囲するなど、その横暴な態度に議員たちは憤慨し、5月23日に黎元洪は段祺瑞を罷免しました。

張勲復辟と黎元洪の失脚

段祺瑞が罷免されると、北洋軍閥系の督軍が次々と独立を宣言しました。黎元洪は、張勲に仲裁を依頼しましたが、張勲は北京を武力制圧し、清朝の宣統帝を復位させました（張勲復辟）。

黎元洪は日本公使館に避難し、段祺瑞と馮国璋に張勲の軍の制圧を依頼しました。段祺瑞は再度国務総理に就任し、張勲軍を打ち破りました。黎元洪は大総統を辞職し、政界から引退しました。

まとめ

府院の争いは、表面的な政策対立の裏に、黎元洪と段祺瑞の個人的な感情的対立、そして当時の政治体制における構造的な問題が複雑に絡み合った結果でした。この争いは、その後の中国政治に大きな影響を与え、軍閥割拠の時代へと繋がっていきます。

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