黎元洪

黎元洪：激動の時代を生きた軍人・政治家

黎元洪（れい げんこう）は、清朝末期から中華民国初期にかけての激動期に、軍人、そして政治家として重要な役割を果たした人物です。彼は第2代、第4代中華民国大総統を歴任しましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。周囲からは「謹厚」とも「柔暗」とも評されたその性格が、複雑な政治情勢の中でどのように作用したのか、彼の生涯を詳しく見ていきましょう。

清朝の軍人から革命の担い手へ

黎元洪は、太平天国の乱鎮圧に尽力した清朝軍人の子として生まれました。1889年に北洋水師学堂を卒業後、海軍に入隊。日[[清戦争]]では巡洋艦「広甲」の機関士として従軍し、黄海海戦で九死に一生を得る経験をします。その後、陸軍の創設に携わり、ドイツ人教官と共に新軍の訓練教官を務めました。1906年には湖北新軍の第21混成旅団長に就任し、武漢の治安維持にあたります。

武昌起義と大総統への道

1911年10月10日、武昌起義が勃発。黎元洪は、革命派によって捕らえられます。しかし、革命派は、軍人からの信頼が厚く、英語を話せる黎元洪を「表看板」として利用することを考えました。彼は当初、渋々ながらも湖北軍政府の都督に就任しますが、次第に革命に積極的になっていきます。11月には革命軍司令官に就任し、清朝との停戦交渉にもあたりました。その後、1912年1月1日には、孫文が中華民国臨時大総統に就任し、黎元洪は副大総統となります。

袁世凱の台頭と失脚

孫文が大総統を辞任した後、袁世凱が臨時大総統に就任し、黎元洪は副大総統に留任します。しかし、袁世凱は黎元洪を潜在的な脅威とみなし、北京に軟禁してしまいます。袁世凱が帝政を復活させようとした際には、反発を恐れてこれに反対はしませんでしたが、袁世凱が与えようとした親王の称号も固辞しました。1916年6月6日に袁世凱が亡くなると、黎元洪は後を継いで大総統に就任します。

府院の争いと第一次大総統辞任

大総統となった黎元洪でしたが、北洋軍閥の実力者である段祺瑞との間で「府院の争い」が勃発。1917年5月23日に段祺瑞を罷免しますが、これをきっかけに北洋軍閥系の督軍が次々と独立を宣言。混乱を収拾するため、黎元洪は張勲に仲裁を依頼しますが、張勲は清朝の復辟を企て、黎元洪は日本公使館に避難することになります。その後、段祺瑞によって張勲は倒されますが、黎元洪は大総統を辞職し、天津に隠棲しました。

第二次大総統就任と挫折

1922年、黎元洪は再び大総統に就任します。しかし、この時の中華民国は、直隷派と奉天派の対立が激化しており、黎元洪は直隷派の傀儡となっていました。彼は「平和的な統一による中央集権国家への移行」を目指しましたが、各派の抵抗にあい、成果を上げることができませんでした。また、直隷派内部の対立に翻弄され、1923年6月に大総統を辞職します。

失意の余生

大総統の職を追われた後、黎元洪は天津・上海で政治工作を試みますが、かつての支持者たちからも見放され、政治への関心を失います。晩年は実業家として活動し、企業に投資するなどして財を成しました。1928年5月25日に昏倒し、同年6月3日に死去。遺言で子供たちが政治に関与することを強く戒めたと言われています。1935年には国民党によって国葬が執り行われ、その遺体は武昌の卓刀泉に埋葬されました。

まとめ

黎元洪は、清朝末期から中華民国初期という激動の時代において、その中心で翻弄され続けた人物です。軍人としてのキャリアをスタートさせながらも、武昌起義を機に政治の世界に足を踏み入れ、二度も大総統の座に就きましたが、その政治手腕は必ずしも高く評価されてはいません。しかし、彼の人生は、当時の中国社会の複雑な状況を如実に映し出しており、歴史を理解する上で重要な人物であると言えるでしょう。

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