康俊 (興福寺大仏師)

康俊（こうしゅん）は、鎌倉時代末期から建武元年（1334年）頃にかけて活動した奈良の仏師です。興福寺に属する大仏師であり、「南都大仏師」とも称されました。同時代の仏師の中でも特に名を知られた存在で、彼の手がけた仏像のうち、2020年時点で4件が国の重要文化財に指定されています。

略歴

現存する康俊の作品で最も古いものは、正和4年（1315年）に制作された奈良・長弓寺塔頭宝光院の木造地蔵菩薩立像です。この像の銘には「南都大仏師法橋」という肩書が見られます。その後、元応2年（1320年）の静岡・MOA美術館所蔵の木造聖徳太子立像（南無仏太子像）では、「南都大仏師法眼」と称しており、この間に位階が上がったことがわかります。康俊は、後醍醐天皇の護持僧を務めた真言律宗・真言宗の僧侶であり絵仏師でもあった文観房弘真と強い結びつきを持っていました。

作風

康俊の作風を知る上で注目されるのが、奈良・般若寺の本尊である木造文殊菩薩騎獅像です。この像は、彼の弟子あるいは子息とされる康成との合作であり、文観の発願、伊賀兼光の寄進によって元亨4年（1324年）に完成しました。仏教美術史家の内田啓一氏は、この文殊菩薩像について、鎌倉時代の絵画作品に一般的な童形の文殊菩薩像を立体像として比較的忠実に再現したものと見ています。その一方で、像の小鼻の大きさや厚みのある唇といった特徴は、康俊・康成独自の表現であり、「小気味よい仕上げ」と高く評価しています。また、被服学者の奥村萬亀子氏は、この像の裳に施された麻の葉文様の截金（きりかね）技法による装飾の美しさに着目し、この時代の仏教美術が、江戸時代以降に流行する麻の葉文様の源流となった可能性を指摘しています。

没年と後継

康俊は建武元年（1334年）までには亡くなっていたと考えられています。彼の死後、興福寺大仏師の職は、弟子であり子息とされる康成が引き継ぎました。

研究史

かつて、奈良の興福寺大仏師であった康俊と、同時期に京都の東寺で活躍した慶派の仏師・康俊は、同一人物が奈良から京都へ移り住み、活動拠点を変えたものと見なされていました。しかし、この説には疑問点も多くありました。一つは、奈良の仏師が突然、京都の有力仏所である七条仏所の正系に入ったとされる不自然さ、もう一つは、活動時期の前半と後半で作風が大きく異なる点です。
20世紀末、大阪・千手寺に伝わる千手観音立像の中から、正平12年（1357年）の記と見られる墨書が発見されました。その墨書には「故法眼康俊」という一文が含まれていました。これを受け、1997年に仏教美術研究者の田邊三郎助氏が「大佛師康俊・康成について」と題する論文を発表し、興福寺大仏師の康俊は建武元年（1334年）頃にはすでに亡くなっており、東寺大仏師の康俊とは別人であるという説を提唱しました。この別人説は、従来の同一人物説が抱えていた不自然さを解消するものであったため、他の研究者からも支持されるようになり、現在ではこの説が広く受け入れられています。

主要作品

康俊作とされる主要な作品には以下のようなものがあります。
木造地蔵菩薩立像（奈良・長弓寺塔頭宝光院蔵） - 正和4年（1315年）、奈良県指定文化財
木造大日如来坐像（大分・金剛宝戒寺蔵） - 文保2年（1318年）、重要文化財
木造聖徳太子立像（静岡・MOA美術館蔵） - 元応2年（1320年）、重要美術品（南無仏太子像）
木造四天王立像（大分・永興寺蔵） - 元亨元年（1321年）、重要文化財
木造文殊菩薩騎獅像（奈良・般若寺本尊） - 元亨4年（1324年）、康成と合作、重要文化財
木造普賢延命菩薩騎象像（佐賀・竜田寺蔵） - 正中3年（1326年）、重要文化財
* 木造僧形八幡神坐像（アメリカ合衆国・ボストン美術館蔵） - 嘉暦3年（1328年）

これらの作品はいずれも木造です。

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