康楽館

康楽館：時を超えて受け継がれる、日本の芝居小屋

秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山に佇む康楽館は、明治43年（1910年）8月16日、小坂鉱山の従業員とその家族の福利厚生施設として開館しました。東京歌舞伎の尾上松鶴一座による盛大なこけら落とし公演で幕を開けたこの芝居小屋は、340坪の広さを誇り、800人を収容できる大劇場でした。

当時としては珍しく、東北地方で唯一の廻り舞台を備えていた康楽館は、従業員の家族を対象とした歌舞伎鑑賞会を定期的に開催していました。太平洋戦争中は一時中止されましたが、戦後復活。しかし、1957年には中止となり、時代の流れとともに、その役割は変化していくことになります。

1970年、建物の老朽化とテレビの普及により、一般興行は休止。その後は、小坂鉱山従業員や町民の集会などに利用されるのみとなりました。解体の危機に瀕するなか、俳優の小沢昭一氏らによる熱心な保存運動が展開され、1985年に所有者である同和鉱業より小坂町に無償譲渡されました。

小坂町は建物の修復に着手。1986年には秋田県指定有形文化財に指定され、同年7月、芝居小屋として見事に再開館を果たしました。再開館後初の常設公演は、大江戸つるぎ太鼓でした。1999年には入館者数100万人を突破するなど、地域を代表する文化施設としての地位を確固たるものにしていきます。

康楽館の周辺整備も進み、1995年には康楽館が面する通りが「明治百年通り」と名付けられ、2001年には隣接地に旧小坂鉱山事務所が移築復元、小坂鉱山病院記念棟と洋風園舎天使館も改修されました。2002年には、康楽館と旧小坂鉱山事務所が国の重要文化財に指定されるという大きな快挙を達成しました。

運営面でも変化がありました。2011年には指定管理者制度を導入し、小坂町からの直営から、第三セクター企業である小坂まちづくり株式会社へと管理が移行。現在もその運営は続けられています。2022年には秋田県の「未来に伝えたい秋田のインフラ50選」にも選出され、その歴史的価値と文化的意義が改めて広く認識されることとなりました。

康楽館の建築は木造2階建て、切妻造妻入で、屋根は銅板葺（当初は杉板葺）です。正面約28.2メートル、奥行約38.2メートルという堂々たる規模を誇り、小坂鉱山を経営していた合名会社藤田組によって建てられました。設計は小坂鉱山工作課長であった山本辰之助氏とされています。

下見板張りの白塗り壁、上げ下げ式窓、鋸歯状の軒飾りが特徴的な洋館風の外観とは対照的に、内部は桟敷、花道、切穴など、伝統的な和風芝居小屋の要素が融合した和洋折衷の造りが魅力です。手動の廻り舞台も健在で、滑車とロープを用いた仕組みは、当時の技術の高さを物語っています。緞帳は西陣織で、小坂町出身の日本画家、福田豊四郎氏の作品です。

移築や復元をせずに現在も使用されている和洋折衷の木造芝居小屋としては日本最古級であり、その歴史的価値は非常に高いものがあります。兵庫県豊岡市の永楽館（1901年竣工）や香川県琴平町の旧金毘羅大芝居（1835年竣工）といった他の歴史的劇場と比較しても、康楽館の持つ独自性は際立っています。永楽館は2008年に復元、旧金毘羅大芝居も移築・復元を経て現在に至りますが、康楽館は創建当時の姿をほぼそのまま保っている点が大きな特徴です。

現在、4月から11月にかけてはほぼ毎日、常打芝居の公演が行われています。特別な公演がない日、年末年始などの休館日を除き、常設公演の有無に関わらず施設内を見学可能です。特に12月から3月にかけては舞台が空いていることが多いため、手動の廻り舞台を実際に回す体験もできます。

アクセスは、JR奥羽本線大館駅、JR花輪線鹿角花輪駅・十和田南駅から秋北バスの路線バスを利用するか、東北自動車道高速バス「小坂バスストップ」から徒歩で行くことができます。康楽館は、小坂町の歴史と文化を今に伝える貴重な存在であり、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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