建長寺船

建長寺船とは

建長寺船（けんちょうじぶね、けんちょうじせん）は、14世紀初頭に鎌倉幕府の公認のもと、中国（元）との貿易のために派遣された船です。その主な目的は、相模国鎌倉（現在の神奈川県鎌倉市）に所在する臨済宗の寺院、建長寺と勝長寿院の修復費用を調達することでした。この船は、単なる貿易船としてだけでなく、日中間の文化交流、特に禅宗の僧侶の往来を促進する重要な役割も果たしました。

建長寺と勝長寿院

建長寺は、鎌倉時代中期の建長5年（1253年）に、鎌倉幕府の執権・北条時頼によって創建された禅宗寺院です。開山は南宋から渡来した蘭渓道隆で、当時の中国禅林の有力な僧侶が数多く来日し、建長寺を拠点としました。一方、勝長寿院は、鎌倉幕府を開いた源頼朝が、父・源義朝の菩提を弔うために元暦元年（1184年）に建立した寺院です。

建長寺船派遣の背景

建長寺は、正応6年（1293年）の鎌倉大地震で多くの建物が倒壊し、その後再建されましたが、勝長寿院は永仁3年（1295年）に焼失。さらに、建長寺も正和4年（1315年）の火災で創建当初の建物の大半を失いました。これらの相次ぐ災害により、寺院の修復費用を捻出する必要が生じ、鎌倉幕府は海商に貿易船の派遣を許可しました。これが「建長寺船」の始まりです。

建長寺船の航海

建長寺船は、正中2年（1325年）7月に鎌倉を出航し、翌嘉暦元年（1326年）9月に帰国しました。往路では筑前国守護代、復路では薩摩国守護代が警護を担当しました。当初は正中元年（1324年）に派遣される予定でしたが、後醍醐天皇の倒幕運動「正中の変」の影響で、翌年に延期されました。この船には、多くの禅僧が便乗し、日中間の禅宗文化交流を促進しました。

建長寺船の役割

建長寺船は、寺社造営料唐船として、寺院の復興資金調達のために派遣されましたが、同時に、中世の日中間の文化交流に大きな役割を果たしました。特に、禅僧の往来は、東アジアの禅林の活発な文化交流を支えました。この船は、後の関東大仏造営料唐船や天龍寺船などの先駆けとなり、鎌倉幕府が渡航時期や船長を指定し、航海の安全を確保する一方、海商に利益の一部を納めさせるという仕組みを確立しました。

禅僧の渡航

往路の建長寺船には、禅僧の中巌円月や不聞契聞らが同乗し、元に留学しました。復路では、北条高時が招聘していた元の禅僧・清拙正澄が来日し、すでに元に渡っていた古先印元や無隠元晦らが帰国しました。このことから、13世紀から14世紀にかけて、禅僧の渡航は主に貿易船の便乗によって行われ、東シナ海を往来する海商たちの活動が、中世の東アジアにおける禅林文化の交流を支えたことがわかります。

発掘調査による新たな発見

建長寺境内の発掘調査の結果、14世紀以前の主要建物が現在よりも西側に位置していたことが判明しました。これにより、当時の建長寺の伽藍配置や寺院運営に関する新たな知見が得られました。

まとめ

建長寺船は、単なる貿易船としてだけでなく、寺院の復興資金調達、文化交流、禅僧の往来など、多岐にわたる役割を担っていました。その航海は、中世における日中間の文化交流史を語る上で欠かせない重要な出来事です。

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