弘中隆兼

弘中隆兼：大内氏を支えた勇将、その生涯と悲劇

弘中隆兼（ひろなか たかかね）は、戦国時代の武将であり、周防国（現在の山口県）を拠点とした戦国大名・大内氏の家臣として活躍しました。清和源氏の流れを汲む名門・弘中氏の出身で、代々岩国（現在の山口県岩国市）の領主を務め、大内氏の重要な氏族として奉行職や軍事職を担ってきました。

若き日の活躍と安芸国での功績

隆兼は大内義隆に仕え、智勇兼備の武将として早くからその名を知られていました。安芸国（現在の広島県西部）の東西条の代官にも任じられ、毛利元就らと共に松尾城攻略などで活躍。大内氏と尼子氏の勢力争いが激化する中、安芸守護代として大内氏の勢力維持に尽力しました。月山富田城遠征では尼子氏に敗北を喫しますが、動揺する国人衆をまとめ、神辺合戦では毛利氏と共に尼子方の山名理興が籠る神辺城を攻略するなど、その武勇を発揮しました。

毛利元就とは公私にわたり親交を深め、大内軍の月山富田城遠征の際には、互いに意見を出し合い義隆に献策するほど信頼関係を築いていました。元就の息子である毛利隆元や吉川元春とも親しく、隆兼は同じく大内家臣である江良房栄と共に、元就の力量を高く評価していたと言われています。

厳島の戦いと壮絶な最期

天文20年（1551年）に陶隆房（後の晴賢）が主君・大内義隆に謀反を起こすと（大寧寺の変）、隆兼は当初反対しましたが、最終的には陶晴賢に従い、大内義長に仕えることになります。陶氏と毛利氏の関係が決裂した後、毛利氏との内通を疑われた江良房栄を晴賢の命により殺害。しかし、晴賢自身も隆兼の内通を疑っていたとも言われています。

厳島の戦いを前に、晴賢が厳島へ全軍を移そうとする作戦に隆兼は強く反対し、陸路からの安芸侵攻を主張。元就の策略であると再三諫言しましたが、聞き入れられませんでした。最期を悟った隆兼は、妻や娘に安心せよとの手紙を残しています。

覚悟を決めた隆兼は、嫡男・隆助と共に厳島へ渡海。村上水軍が毛利方に付いたのを見て、大内軍の敗北を予感したと伝えられています。戦いが始まると、隆兼は総大将である陶晴賢を逃がすため、自ら盾となり奮戦。大内軍が総崩れとなる中、唯一陣を保全し、吉川元春らの攻撃を防ぎました。しかし、多勢に無勢の中、竜ヶ馬場に籠もって3日間孤軍奮闘し、遂に討ち死にを遂げました。

死後の追悼と弘中家のその後

隆兼の死後、その智勇と忠節を深く悼んだ毛利元就は、弘中家の縁者を毛利家で登用・保護するなど、手厚く遇しました。隆兼の孫は、吉川氏が岩国の領主となった際に白崎八幡宮の宮司となることを許され、その血筋は今も続いています。また、隆兼の曾孫は通津専徳寺を開基し、昭和16年（1941年）には隆兼の墓がその境内に移されました。

自らの死を覚悟しながらも、主君への忠義を貫いた弘中隆兼の最期は、西国の悲劇として語り継がれています。岩国市にある中津居館跡は、弘中氏の居館と推定されており、その規模は大内氏館に匹敵すると言われています。隆兼は、激動の戦国時代において、大内氏に忠誠を誓い、その命を捧げた勇将として、歴史に名を刻んでいます。

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