神辺合戦

神辺合戦の概要

神辺合戦は、天文12年（1543年）6月から天文18年（1549年）9月4日まで、備後国（現在の広島県福山市）の神辺城を舞台に、大内氏・毛利氏連合軍と、尼子氏に味方する山名理興との間で繰り広げられた一連の戦いです。6年以上にわたる長期戦の末、大内・毛利連合軍が勝利を収めました。当時、神辺城は村尾城と呼ばれており、神辺城という名称は16世紀末以降に用いられるようになりました。

背景

神辺城主の山名理興は、当初は大内氏に従っていましたが、大内氏が尼子氏攻略に失敗したことを機に、尼子氏側に寝返りました。備後南部の要衝である神辺城の離反は大内氏にとって大きな痛手であり、大内義隆は弘中隆兼と毛利元就に神辺城の攻略を命じました。

戦いの経過

開戦

天文12年6月、山名理興はただちに沼田小早川領の椋梨へ兵を進めましたが、毛利軍の反撃により侵攻は阻止されました。翌7月には、大内氏の重臣である弘中隆包も援軍として駆けつけました。10月には、山名氏を支援するために派遣された尼子軍も撃退され、大内・毛利連合軍は年末に神辺城への攻撃を開始しました。理興は神辺城の防御に成功したものの、ここから神辺城を巡る長期戦が始まりました。

尼子氏の動きと神辺城の孤立

天文13年（1544年）になると、尼子氏は備後国への足掛かりを築くため、甲奴郡の田総や双三郡の布野、豊田郡の高山城などに軍勢を進出させましたが、いずれも決定的な成果を上げることができませんでした。同年11月には、毛利元就の三男である徳寿丸（後の小早川隆景）が竹原小早川家の当主となり、小早川氏は毛利一門に組み込まれました。これに先立ち、大内氏は竹原小早川氏に対し、神辺城の南東に位置する五箇庄を制圧し、拠点を築くよう指示を出しました。これは、当時の大門湾にあった港が尼子氏の勢力との中継点であったため、水軍を有する小早川氏による海上からの攻略を狙ったものでした。天文15年から16年にかけて、竹原小早川軍は大門湾周辺の手城島城や明智山城を攻略し、大門湾周辺の占拠に成功しました。これに対し、山名軍は神辺城と大門湾の中間地点である竜王山に坪生要害を築いて対抗しましたが、天文16年4月28日に坪生要害も陥落しました。この戦いでは、徳寿丸が元服し、小早川隆景として初陣を飾ったとされています。

大内・毛利連合軍は陸路からも神辺城を目指し、12月下旬には尼子氏の援軍を撃退しました。山名家家老の杉原盛重の奮戦により神辺城の攻略には至らなかったものの、大内軍は備後国内陸部をも支配下に置き、神辺城は孤立しました。

大内・毛利軍の総攻撃

天文17年（1548年）6月、大内・毛利連合軍は神辺城への総攻撃を開始しました。大内義隆は陶隆房を総大将に任命し、周防・長門の兵5,000余騎に加え、毛利元就、隆元、吉川元春、小早川隆景、平賀隆宗、宍戸隆家、香川光景らの兵を合わせた10,000余騎とも、総勢16,000余騎とも言われています。対する神辺城の守備兵はわずか1,000から1,500人でした。

吉川元春は、この戦いが家督を継承してから初の戦いとなり、神辺城下に火を放ちましたが、杉原盛重の軍勢に迎撃され、激戦が繰り広げられました。大内・毛利連合軍は城の柵や塀を越えて攻撃を仕掛けましたが、山名理興はこれを凌ぎました。7月には、大内義隆の指示により、稲薙（青田刈り）が大規模に行われ、神辺城の兵糧攻めが行われました。

平賀隆宗による城攻めと終結

天文18年（1549年）2月、毛利元就は吉川元春、小早川隆景と共に山口へ向かい、大内義隆と会見しました。同月、神辺城麓で、4月には七日市や籠屋口で激しい戦闘が発生しましたが、神辺城は持ちこたえていました。長期戦を懸念した平賀隆宗の提案により、神辺城の北方にある要害山に城を築き、平賀勢800を残して大内軍主力は撤退しました。平賀隆宗は、以前から山名理興に恨みがあったため、城攻めを一任されたいと申し出たとされています。

平賀隆宗と山名理興は幾度も小規模な戦闘を繰り返しましたが、7月3日に平賀隆宗が病没しました。しかし、平賀勢は弔い合戦として城攻めを継続し、ついに9月4日、山名理興は神辺城を捨てて逃亡し、神辺合戦は終結しました。

戦後

神辺城落城の知らせを受けた大内氏は、弘中隆包と青景隆著を派遣し、戦後処理を行いました。神辺城には青景隆著が城番として入り、備後外郡一帯を支配しました。尼子氏は備後攻略の拠点を失いました。一方、出雲に逃れていた山名理興は、天文23年（1553年）に毛利氏が陶氏と断交すると帰国し、毛利氏に恭順しました。その後、毛利氏の勢力下となった神辺城には、毛利氏の配下として入城しました。弘治2年（1556年）に理興が病死すると、吉川元春の推薦により、理興の家臣であった杉原盛重が神辺城を継承しました。

神辺合戦は、中国地方の勢力図を大きく変動させる重要な戦いであり、後の毛利氏の台頭へと繋がる転換点となりました。

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