弘仁儀式

弘仁儀式とは

弘仁儀式（こうにんぎしき）とは、平安時代初期の弘仁年間に編纂されたとされていた儀式書のことです。しかし、今日ではその存在そのものが否定的に見なされています。

幻の儀式書

『本朝法家目録』という書物には、弘仁儀式が10巻からなる儀式書として、その書名と各巻の題目のみが記録されています。しかし、その内容を記した文章や逸文は一切残されていません。かつては、弘仁格式の編纂に合わせて、弘仁10年（819年）以前に編纂されたと考えられていました。

存在否定の根拠

弘仁儀式の存在が否定されるようになったのは、石塚一石の研究がきっかけでした。石塚は、『本朝法家目録』に記載された弘仁儀式の篇目に「七月二十五日相撲儀」が含まれていることに注目しました。相撲節会が7月25日に開催されるようになったのは、弘仁年間よりも70年も後の仁和年間であり、弘仁年間には7月7日に開催されていたという事実を指摘しました。

さらに、弘仁儀式の篇目の中には、弘仁式逸文に記載された日付と合致しない行事が含まれていることも指摘し、これらの矛盾から、弘仁儀式は実際に編纂されたのではなく、後世に作られた架空の書物であるという見解を打ち立てました。

『内裏式』・『内裏儀式』の存在

『本朝書籍目録』には、『弘仁儀式』と並んで『内裏式』および『内裏儀式』という2つの儀式書が記載されています。これらの儀式書は現存しており、編纂年代が弘仁年間であったことも明記されています。実際に用いられていたと考えられる『内裏式』と『内裏儀式』が弘仁年間に編纂されたことを考えると、それと並行して別の儀式書が編纂される余地はなかったと考えられます。

後世の創作という見解

これらのことから、今日では、平安時代中期以降の人が「貞観儀式」や「延喜儀式」が存在したように、格式と同様に儀式も三代揃っていたはずだという考えから、両儀式を参考にして『弘仁儀式』という架空の書物を想定したという見方が有力です。

このように、弘仁儀式は、実在した儀式書ではなく、後世に作られた架空の存在であると考えられています。

参考文献
* 森田悌『日本古代律令法史の研究』（文献出版、1986年）

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