月のゆくへ

『月のゆくへ』（つきのゆくえ）は、江戸時代中期の明和8年（1771年）に荒木田麗女によって著された二巻三冊からなる歴史物語です。「月の行方」や「月の行衛」とも表記されます。作者である荒木田麗女の代表作の一つとして知られています。

物語の内容は、史実と虚構を巧みに織り交ぜながら、平家一門の栄華と没落を、鎌倉時代に成立した歴史物語である「鏡物」と呼ばれる作品群のスタイルに倣った雅やかな文体で描き出したものです。具体的には、巻の一（二冊）で高倉天皇の事績を、巻の二で安徳天皇の事績をそれぞれ述べています。作者の荒木田麗女は、この作品を『今鏡』と『増鏡』という二つの鏡物の間に位置する『弥世継』の代替となることを意図して執筆しました。

『月のゆくへ』を執筆するにあたり、荒木田麗女は主に『平家物語』や『源平盛衰記』といった先行する軍記物語を資料として参照しました。さらに、作者自身の豊かな知識を生かし、和歌や漢詩、中国の故事などを物語の中に引用することで、作品に奥深い趣を添えています。これらの要素が組み合わさることで、『月のゆくへ』は単なる歴史の記録にとどまらず、文学作品としての価値を高めています。

現在、『月のゆくへ』の写本が伊勢神宮の神宮文庫に所蔵されています。この写本は、荒木田興正の妻である直女によって書き写されたものです。このことからも、この作品が当時から貴重なものとして扱われていたことがうかがえます。

『月のゆくへ』は、平家物語を題材とした歴史物語であり、荒木田麗女の文学的才能を示す代表作として、日本の古典文学の研究において重要な位置を占めています。

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