弦楽セレナーデ (チャイコフスキー)

弦楽セレナーデ ハ長調 作品48

ピョートル・チャイコフスキーが1880年に作曲した弦楽オーケストラのための作品。彼の代表作の一つとして、世界中で広く親しまれています。

この作品は、チャイコフスキーがモスクワ音楽院に着任した時からの親友である、チェロ奏者コンスタンチン・カールロヴィチ・アルブレヒトに捧げられました。

当時のヨーロッパ音楽に対し、表面的な効果を狙ったものが多いと感じていたチャイコフスキーが、敬愛するモーツァルトの精神に立ち返るという意図で作曲されました。完成をパトロンのフォン・メック夫人に報告する手紙には、「強い内的衝動によって書かれたもので、だからこそ真の芸術的な価値を失わない」と記されています。

作品の概略

1880年9月、チャイコフスキーはメック夫人への手紙で、交響曲か弦楽五重奏曲の形で新しい曲を書き始めたと報告しました。その曲は「弦楽合奏のための組曲になる」とされ、その後「セレナード」と名付けられました。出版譜のタイトルはこれを反映しています。

初演は1881年10月、サンクトペテルブルクでエドゥアルド・ナープラヴニーク指揮するロシア音楽協会のオーケストラによって行われました。ナープラヴニークは、初演が好評で、ワルツがアンコールされたと述べています。

曲の構成

ハ長調という明快な調性で書かれ、各楽章は五度関係を用いて構成されています。各楽章には、それぞれの特徴を端的に表した題が付けられています。

1. 第1楽章: Pezzo in Forma di sonatina; Andante non troppo - Allegro Moderato

「ソナチネ形式の小品」と題された、展開部を欠くソナタ形式です。チャイコフスキーはモーツァルトへのオマージュとして、彼の様式を模倣したと述べていますが、イ短調の主和音で開始される重厚な序奏は、作曲者独自の色が表れたメランコリックな印象を与えます。広々とした第一主題と、軽やかな第二主題から構成されています。

この楽章の序奏は、『N響アワー』のオープニングや、スタッフサービスのCMに使用され、広く知られています。

2. 第2楽章: Waltz; Moderato (Tempo di valse)

ロンド形式のワルツです。チャイコフスキーはソナタや交響曲の楽章にワルツを用いることを常としており、この楽章もその例に漏れません。第1ヴァイオリンが奏するメロディーは親しみやすく、よく知られています。冒頭部は、NHK衛星第2テレビジョン（BS-2）の番組「クラシック・ロイヤルシート」のオープニングで使用されていました。

3. 第3楽章: Elegie; Larghetto elegiaco

「エレジー」と題されていますが、全曲にわたって長調で書かれています。三部形式ですが、中間部はメイン主題の自由な変奏で構成され、序奏も再現されます。ホモフォニックで印象的な序奏に始まり、3連符のリズムに乗って、様々な声部で歌が奏でられます。倍音を響かせた終止の和音から、直接第4楽章に繋がります。

4. 第4楽章: Finale (Tema russo); Andante - Allegro con spirito

自由な変奏曲とロンド形式を組み合わせたような楽章です。「ロシアの主題によるフィナーレ」とあるように、序奏もメイン主題もロシア民謡を基盤としています。第3楽章から続いた和音によって開始され、ロシア民謡『なんと緑の牧場のことよ！』の主題が用いられています。次第に主部のモティーフが示され、民謡『緑のリンゴ畑にて』の主題による主部に流れ込みます。終結部では第1楽章の序奏主題が再現され、堂々と全曲を閉じます。

その他特記事項

ユルゲンソン社から刊行された初版スコアには、「弦楽オーケストラはより多くの人数で演奏することが、作曲者の望みである」と書かれており、チャイコフスキーが大規模なオーケストラを想定して作曲したことが示唆されています。

スタッフサービスのCM「職場に恵まれなかったら、オー人事」では、第1楽章の序奏がBGMに使用されています。2018年のコマーシャルでは、フルオーケストラによる特別演奏を用いたバージョンが制作されました。

関連情報

セレナーデ (バレエ) - この楽曲を用いたバレエ
弦楽セレナーデ作品48の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
Serenade for String Orchestra, Op.48 - 『Musopen』より
Serenade for String Orchestra - 『Tchaikovsky Research』より
* Serenata per archi op.48 (P.I. Čajkovskij) - 『Magazzini Sonori』より（イタリア語）

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