エレジー

エレジー：悲しみの詩と歌の広がり

エレジー（英語: elegy）は、悲しみや嘆きを表現する詩や楽曲を指します。日本語では悲歌、哀歌、挽歌など、様々な訳語が用いられます。その起源は古代ギリシアの「エレゲイア（ἐλεγεία）」に遡りますが、古代ギリシアにおけるエレゲイアは、特定の韻律（ダクテュロス・ヘクサメトロスとダクテュロス・ペンタメトロスの二行連句）で、笛の伴奏とともに歌われる詩であり、必ずしも悲哀を主題とするものではありませんでした。

古代ギリシア・ローマのエレジー

古代ギリシア語の「エレゴス（ἔλεγος）」という言葉に関連するエレゲイアは、当初は死者を悼む歌と考えられていましたが、現存する作品には多様な主題が含まれ、必ずしも悲哀のみを表現したものではありません。一方、純粋な哀悼歌としては「トレーノス（θρῆνος）」という別のジャンルが存在し、ピンダロスやシモーニデースといった詩人の作品が知られています。

古典詩におけるエレゲイアの詩形である「エレゲイオン（elegeion）」は、ダクテュロス・ヘクサメトロスとダクテュロス・ペンタメトロスの二行からなる連句です。ヘクサメトロスは叙事[[詩]]にも用いられる韻律であり、エレゲイアは叙事[[詩]]よりも格式が低いと見なされていました。そのため、エレゲイア詩人は叙事[[詩]]の技法を応用しながら、より簡潔で洗練された作品を創作しました。

アルキロコスやシモーニデースといった初期のエレゲイア詩人は、叙事[[詩]]と同等の歴史を持つとされています。しかし、特に重要なのは、ヘレニズム時代のカリマコスです。彼は叙事[[詩]]よりも短く簡潔なエレゲイアが、より美しく評価されるべきだと主張し、後世のローマの詩人たちに多大な影響を与えました。

ローマ時代を代表するエレギア詩人としては、カトゥルス、プロペルティウス、ティブッルス、オウィディウスらが挙げられます。彼らはカリマコスの影響を受けつつ、互いに詩作を通して交流しました。ローマでは叙事[[詩]]が公的な主題を扱った堅苦しいものとされたのに対し、エレギアは私的で親密な、より柔らかな表現形式とされました。アウグストゥス時代初期には、特に恋愛を主題とした、一人称による官能的な詩が多く書かれました。

西洋近代詩におけるエレジー

イギリスでは、1751年にトマス・グレイが発表した『墓畔の哀歌（Elegy Written in a Country Churchyard）』が大きな影響を与え、エレジーが広く受け入れられるようになりました。グレイはエレジーを孤独と哀悼の詩として定義し、古典的な詩形からの制約を解き放ちました。

その後、サミュエル・テイラー・コールリッジは、エレジーは「思索にふける精神に最も自然な」形式であり、主題は自由であると主張しました。これは、抒情[[詩]]的な要素を取り入れ、エレジーの定義を拡大する試みでした。ロマン主義以降、エレジーは再び死者を悼む詩という狭義の意味に戻っていく傾向が見られますが、その表現形式や主題は多様化し続けています。

ドイツではゲーテやシラー、ヘルダーリンといった著名な詩人がエレゲイア形式の作品を発表し、発展に寄与しました。

エレジーの多様な表現

エレジーは詩にとどまらず、音楽、絵画など、様々な芸術分野で表現されています。クラシック音楽においては、多くの作曲家が「エレジー」と題した作品を創作し、悲しみや追悼の感情を音楽を通して表現しました。 近代音楽においても、形式にとらわれない自由な表現が多く見られます。

現代においても、「エレジー」というタイトルを持つ楽曲や映画、小説などが制作され、時代を超えて受け継がれる表現形式として、人々の共感を呼び続けています。文学作品、音楽作品、そして映画作品など、さまざまな媒体を通して、エレジーは死や喪失、あるいは深い悲しみを表現する手段として、私たちに訴えかけてきます。その表現様式は時代とともに変化を遂げてきましたが、人間の根源的な感情を表現する力を持つ、普遍的な芸術表現と言えるでしょう。

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