弦楽四重奏曲第11番 (モーツァルト)

弦楽四重奏曲第11番 変ホ長調 K. 171

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1773年にウィーンで完成させた、《弦楽四重奏曲第11番 変ホ長調 K. 171》は、彼の創作活動における重要な転換期を彩る作品群の一つです。この楽曲は、1773年の夏に集中的に作曲された、いわゆる「ウィーン四重奏曲」と呼ばれる6曲（第10番から第15番）の第4番にあたります。これらの四重奏曲は、当時のモーツァルトが、特にフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの進歩的なスタイルから多くの刺激を受け、自身の弦楽四重奏の語法を深く探求していた時期の成果を示しています。

作曲背景と特徴

この変ホ長調の第11番は、同じくウィーン四重奏曲に含まれる第10番（K. 170）と同様に、通常の古典派四重奏曲におけるメヌエット楽章と緩徐楽章の順序を入れ替え、第2楽章にメヌエットを配置するという実験的な試みが織り込まれています。これは、作曲家が楽章構成の可能性を模索していた証拠と言えるでしょう。

音楽的な面では、ハイドンが同時期に発表した革新的な弦楽四重奏曲からの影響が顕著に見受けられます。特に、ハイドンの《弦楽四重奏曲集 作品17》や《太陽四重奏曲 作品20》をモデルにしたと考えられており、単なる形式的な模倣に留まらず、それまでには控えめだったより劇的で感情豊かな表現が作品に導入されています。これは、モーツァルトが単なる優雅さから一歩進んで、音楽の内面に潜む深い感情や対比を描き出そうとしていたことを示唆しています。

これらのウィーン四重奏曲は、モーツァルトが後の傑作である「ハイドン・セット」へと至る重要なステップであり、彼が室内楽作曲家として成熟していく過程を追う上で欠かせない作品群です。

楽曲構成

楽曲は全4楽章で構成されており、標準的な演奏時間は約13分です。

1. 第1楽章：アダージョ - アレグロ・アッサイ
変ホ長調、4分の4拍子、ソナタ形式。
静かで内省的なアダージョの序奏に始まり、溌剌としたアレグロ・アッサイの主部へと移行します。主部はソナタ形式で書かれ、力強い主題と展開が特徴です。

2. 第2楽章：メヌエット - トリオ
変ホ長調 - 変イ長調、4分の3拍子。
定型的なメヌエット楽章ですが、通常の第3楽章ではなく、緩徐楽章の前に置かれています。変イ長調のトリオ部との対比が印象的です。

3. 第3楽章：アンダンテ
ハ短調、4分の4拍子、二部形式。
この楽章はハイドンの影響が特に色濃く出ているとされ、ハ短調という調性が楽曲に深刻な表情を与えています。短いながらも情感豊かな緩徐楽章です。

4. 第4楽章：アレグロ・アッサイ
変ホ長調、8分の3拍子、ソナタ形式。
軽快な8分の3拍子に乗せて、フィナーレにふさわしい活気にあふれた楽章です。ソナタ形式で書かれ、快活な主題が展開され、華やかに全曲を締めくくります。

この《弦楽四重奏曲第11番 K. 171》は、モーツァルトが青年期において、先行する偉大な作曲家からの影響を受けつつ、自身の個性的な音楽語法を確立しようと試みていた姿を映し出す、興味深い作品と言えるでしょう。

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