弦楽四重奏曲第5番 (メンデルスゾーン)

弦楽四重奏曲第5番 変ホ長調 作品44-3

フェリックス・メンデルスゾーンの手による弦楽四重奏曲第5番 変ホ長調 作品44-3は、1838年に生み出されました。この作品は、作曲家が1837年から1838年にかけて集中的に取り組んだ3曲の弦楽四重奏曲（作品44）の一つとして位置づけられています。作品44は、1837年に完成した第4番（作品44-2、1839年改訂）に続き、1838年に本作品である第5番、そして同年に第3番（作品44-1）が作曲され、これらがまとめて出版されました。

作曲背景と特徴

メンデルスゾーンは、初期の弦楽四重奏曲である第1番や第2番を作曲するにあたっては、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲から強い影響を受けていました。しかし、作品44の段階においては、作曲家自身の音楽様式がより明確になり、独自の語法を確立しつつある様子を垣間見ることができます。とはいえ、この第5番には、なおベートーヴェンの傑作である「ラズモフスキー四重奏曲」を思わせるような楽想が存在するという指摘もなされています。

この作品は1838年2月6日に完成を迎え、同年4月3日にはライプツィヒにおいて、ヴァイオリニストのフェルディナント・ダーフィトらの演奏によって初演されました。楽譜の出版に際しては、1839年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社からパート譜が先行して世に出され、総譜は1840年に出版されています。パート譜の出版時には、メンデルスゾーン自身による様々な改訂が加えられました。

作品44に収められた他の2曲に比べると、この第5番は演奏機会に恵まれない傾向があると言われますが、その形式面にはメンデルスゾーンならではの創意工夫の跡が鮮やかに刻み込まれています。全曲の演奏時間は約35分から36分程度です。

楽曲構成

メンデルスゾーンの他の弦楽四重奏曲と同様に、この第5番も以下の4つの楽章から構成されています。

1. 第1楽章：Allegro vivace 4/4拍子 変ホ長調
ソナタ形式で書かれています。楽章は、小気味良く弾むような16分音符の動機と、それに続く4分音符による穏やかな音階からなる第1主題で開始されます。この第1主題に含まれる16分音符の音型は、楽章全体を通じて経過句や伴奏として頻繁に用いられます。第1主題とは対照的な性格を持つ第2主題がト短調で提示される際にも、第1ヴァイオリンはこの活発な音型で音楽を下支えし続けます。第2主題が変ロ長調で落ち着いた後、提示部の終わり近くに現れる新たな旋律は、その後の展開部で重要な役割を担います。
展開部はチェロによって開始され、しばらくの間、第1主題と第2主題に見られる短2度下降の動機が組み合わされて展開されます。続く16分音符による急速なパッセージがクレッシェンドを導き、フォルテッシモに到達すると、提示部終盤の旋律がチェロに穏やかに現れます。これが他の楽器と応答しながら美しく扱われた後、再び16分音符の音型が登場し、第1ヴァイオリンが急速な上昇音型を奏でる中で第1主題の再現を迎えます。第2主題への推移は提示部とは異なり、ヴィオラがやはり16分音符の音型を奏でる上でハ短調で再現されます。提示部終盤の旋律も再現された後、ヴィオラに対して他の楽器がピッツィカートで応じる形でコーダに入ります。コーダでは、第1主題、第2主題、そして提示部終盤の旋律が全て盛り込まれ、充実した音楽が展開された末、勢いをもって楽章を閉じます。

2. 第2楽章：Scherzo: Assai leggiero vivace 6/8拍子 ハ短調
このスケルツォ楽章では、冒頭からチェロによって提示される、ほぼ切れ目なく続く特徴的な伴奏音型が耳を引きます。この音型の上に、どこか焦燥感を帯びた主たる楽想が展開されます。一度音楽がまとめられると、冒頭楽想の性格を受け継いだ活発なフガートが開始されます。これはまもなく収まり、弱音による旋律とそれに続く強奏が特徴的な新たな素材が現れます。冒頭楽想が一時的に変イ長調で顔を出しますが、その後再び現れた新しい素材が高らかに奏された後、再びフガートへと突入します。ここでは最初のフガート主題に半音階的な下降音型が加わる二重フーガの様相を呈します。フガートが終了すると音楽は弱音を保って進み、全楽器によるユニゾンで一度フォルテに達しますが、最後は弱音によるピッツィカートによって簡潔に閉じられます。

3. 第3楽章：Adagio non troppo 3/4拍子 変イ長調
1小節の導入に続き、第1ヴァイオリンが主題を提示します。ただし、その後に主に扱われていくのはこの主題そのものよりも、導入の1小節に含まれる特徴的なリズム動機の方です。続いて現れる第2の主題は、第2ヴァイオリンとヴィオラによってもたらされます。楽章の中間部では、第2ヴァイオリンによる印象的な伴奏音型の上に、第1ヴァイオリンが情熱的な旋律を奏でます。この伴奏音型はこれ以前から断片的に姿を見せていたもので、そのまま中間部のクライマックスを形成し、最初の主題の再現時まで続きます。その後、第2の主題も再現され、中間部の情熱的な旋律も変イ長調に移されて再び奏されます。音楽は次第に静まり、最初の主題の余韻を残しながら静かな終わりを迎えます。

4. 第4楽章：Molto allegro con fuoco 4/4拍子 変ホ長調
力強く活発な終楽章であり、その急速なパッセージの数々は演奏者に高い技術を要求します。また、メンデルスゾーンの巧みな主題操作が見事に発揮されています。前楽章の静寂から一転、猛烈な分散和音の響きで幕を開けます。これに続いて、明るく躍動的な主題が現れます。この主題に含まれる1オクターヴの大きな跳躍は、楽章全体を通して様々な形で織り込まれています。多様な要素が盛り込まれる中にあって、カンタービレで始まる旋律の後半部分は、穏やかな表情を持ち、聴く者の心に深く刻まれます。
以降、主に冒頭の分散和音の音型が活用されて音楽は展開されます。最初の主題がそのまま再現された後、その主題を用いた発展的な展開が見られます。これが一段落すると、穏やかな旋律が回帰します。この穏やかな旋律はその後もう一度回想され、序奏部の分散和音の音型と最初の主題を組み合わせた、息つく暇もないようなコーダへの呼び水となります。曲はそのまま高い熱量を保ち続け、一気に全曲の終結へと到達します。

もう一度検索