張國煒

張國煒（チャン・クォウェイ、ちょう こくい、1970年9月6日 - ）は、台湾の起業家、実業家、そしてパイロットです。エバーグリーン・グループ（長榮集團）創業者である張榮發（1927年 - 2016年）の四男として生まれ、後妻の第一子にあたります。彼は、エバー航空やグループ内各社で重要な役職を歴任しましたが、父の死後、後継者争いに巻き込まれる形でグループを離れ、自ら星宇航空（スターラックス・エアラインズ）を創業しました。愛称はK董（K董事長）、小K、KW チャンなど。

経歴

学歴

張國煒は、私立東山高級中学を卒業後、淡水工商管理専科学校国際貿易科（現在の私立真理大学国際貿易学系）に進学しました。その後、米国に渡り、南カリフォルニア大学で経済学の学士号を取得し、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で経済学の修士号を取得しました。

エバーグリーン・グループ

1996年、張國煒はエバー航空に地上職として入社し、手荷物取扱業務からキャリアをスタートさせました。その後、様々な部門で経験を積み、1998年には総合職に異動。主席副総経理を経て、2005年にはエバー航空の総経理（CEO）に抜擢されました。しかし、家庭問題により1年で辞任。無給で在籍したまま米国に留学後、2009年に帰国しました。その後、エバー整備部門の長栄航太科技協理、副総経理（2010年1月）、兼任でエバー航空企画本部協理（2009年6月-）などを務めました。

2010年には、ボーイング777-300ER（B777）の副操縦士訓練を修了し、同機の整備士資格も取得。同年、エバー副総経理に再昇格しました。2011年よりエバー総経理、2012年11月にはB777機長資格を取得しました。2013年1月にはエバー董事長に就任し、同時に民用航空局の機長試験にも合格。台湾で唯一のパイロット資格を持つエアライン経営幹部となりました。自らが定期便の機長や新機材受領後の自国へのフェリー・フライトを行うこともありました。2014年9月1日、エバーグリーングループ副総裁に就任しました。

2016年2月18日、父の遺言状を公開し、グループ総裁に就任することを宣言しましたが、異母兄弟との確執により、2月22日にグループ総裁を解任され、管理総部の部署も廃止されるなど、短期間でその地位を失いました。同年3月11日には、国際線機長として乗務中の不在時に、グループにより董事長の職位も剥奪されました。この時、彼はシンガポールから台北への任務が予定されていましたが、安全上の理由から、エバー上層部により乗客として帰国させられました。同時期に長栄海運董事、栄運董事の座も失いました。

星宇航空

2016年11月30日、張國煒は出資者を募り、法人「星宇航空」の設立を大々的に発表しました。当初は投資業という形態でしたが、その後、航空会社としての資格を取得しました。しかし、商標登録を巡って旅行業者との間で争いが起きましたが、最終的に張國煒側が勝利しました。

2017年には、航空会社設立の動きを具体化させました。従来は新規参入に際して厳しい規制があった「民用航空運輸業管理規則」について、張國煒の資産やパイロットとしての経歴などが考慮され、交通部が条文改正に踏み切り、星宇の新規参入を事実上認めることになりました。この修正法案は「國煒條款」とも呼ばれています。

2018年、投資業であった星宇航空が正式に航空会社として成立しました。メディアは「王子の復讐」と報じましたが、張國煒本人は「もはやプリンスではなくキングになった」と述べ、復讐よりも自身の飛行機と空への愛が動機であると強調しました。星宇航空には、エバー航空の出身者が多く、張國煒がエバー総経理だった頃からの腹心である鄭傳義も、総経理として呼び戻されました。しかし、鄭は2018年末に病で逝去し、張國煒に大きな衝撃を与えました。

2020年1月23日の運行初日には、自身が操縦するマカオ便を急遽変更し、自社サイトでプロモーションビデオを掲載。父への感謝を表明しました。また、Facebookで「父さん、新会社が今日運航を始めました。幸せですか？我々はあなたが安心できるように、あなたを落胆させないように頑張ります」と投稿し、大きな反響を呼びました。2022年10月には、星宇が運用するエアバスA350 XWBの操縦士資格も取得しています。

栄典

真理大学第七屆傑出校友に選出された他、2021年1月26日には、フランス政府からレジオンドヌール勲章（シュヴァリエ）を授与されました。父・榮發も同章（オフィシエ）を受章しており、親子二代での受章となりました。フランス在台湾協会主任は、「彼は熱烈な起業家であるだけでなく、エバー航空時代からエアバスを調達するなど、アジア太平洋市場ではフランス航空産業界にとっての友人であり立役者だった」とコメントしました。

家族

2000年にエバー航空の乗務員と結婚しましたが、2005年に離婚。翌年には、子会社のユニー航空の乗務員と再婚し、2子をもうけました。父の逝去に伴い、遺言状に従ってグループ総裁に就任しましたが、一族内での株式比率が低かったため、他の兄弟によって解任されました。2020年3月16日、台北地方法院は、張國煒に全財産を分与するという父の遺言状を部分的に有効と認定しました。民法の「特留分」が適用されたため、まず半額を張國煒が、残り半分を親族で6等分に分与されることになりました。これにより、張國煒は全資産の12分の7、約140億ニュー台湾ドルの遺産を相続することになりました。

一族内での影響力

グループから追放された形ではありますが、星宇設立後もグループへの影響力が消えたわけではありません。2022年2月には、エバー航空の株主である長栄国際公司の董事会改選において、張國煒の母が影響力を行使しました。また、同時期には、星宇が国内離島路線に進出する可能性も噂されました。2022年4月14日には、ユニー航空の臨時董事会で張國煒の董事長就任が決定しましたが、同年9月27日に辞任しています。

エピソード

エバー董事長時代には、広告をコストではなく投資と捉え、大胆なマーケティングを展開しました。2013年6月には、スターアライアンス加盟を記念し、俳優の金城武を起用したCM「I See You」を制作し、大きな話題となりました。また、自身もアイス・バケツ・チャレンジに参加し、1万USドルを寄付しました。

パイロットのライセンスだけでなく、整備士の資格も保有しており、機長として乗務する前に自ら点検をすることもあります。2019年7月には、エアバスA321Neoの操縦士免許も取得しました。また、母校にエバー機材の座席などを寄贈したり、退任後も「煒粉」と呼ばれるファンに注目されるなど、その一挙手一投足が注目を集めています。

2016年11月には、トランスアジア航空が破綻した際に救世主として名前が挙がったこともありました。星宇設立時の短距離路線用機材としてボーイング737MAXを検討していましたが、最終的にはエアバスA321を選択しました。その後の737MAXの不具合による事故を目の当たりにし、自身の選択を「神懸っていた」と語っています。星宇初号機のフェリーフライトでは、自ら操縦し、ドイツから台湾まで約50時間かけて帰国しました。

サンリオ

エバー航空総経理時代には、サンリオとのコラボレーション企画「ハローキティジェット」を成功させました。機体ラッピング、機内インテリア、搭乗券に至るまでハローキティで埋め尽くすという大胆なアイデアは、当初社内で疑問視されましたが、女性客の増加だけでなく、男性客からのプレゼント需要も生み出し、大きな成功を収めました。その後も、様々な企業とのコラボレーションを実現し、エバー航空の業績向上に大きく貢献しました。

星宇航空の命名

『星宇』という名前は、父の航海士時代への尊敬の念や、自身がパイロットとして星空を仰ぎ見ていた思い出を込めて命名されました。また、ブランドが宇宙のように無限に広がる希望を込められています。星宇のロゴマークも、エバー航空のロゴを彷彿させるもので、父への敬意を表しています。

古巣エバーへの意識

競争相手である古巣のエバー航空に対して、経営面では言葉少なですが、安全面については辛口な評価をすることがあります。台風の最中に多くの便を強行したエバー航空の対応を批判したり、エバー乗務員の飲酒問題について嘆くなど、その姿勢はパイロット出身ならではのものです。また、星宇航空ではボーイング機ではなくエアバス機を採用したことについて、古巣への私怨説を否定し、最新技術と燃費効率を考慮した結果であると説明しています。エバー航空のストライキ問題については、労働者側に理解を示しつつも、早期収束を図れなかったことへの疑問を表明しました。

もう一度検索