張宏 (元)

張宏：モンゴル帝国に仕えた済南張氏の盛衰

張宏（ちょう こう、1225年 - 1287年）は、モンゴル帝国に仕えた漢人世侯の一人であり、済南を拠点とする大軍閥、張栄の孫にあたります。彼は激動の時代を生き抜き、モンゴル帝国に忠誠を尽くす一方で、漢人としての立場も守り抜こうとしました。

生い立ちと家督相続

張宏の祖父である張栄は、済南を拠点にモンゴルに仕えた漢人世侯でした。その息子、張邦傑がモンゴル高原に滞在していた際に、モンゴル人女性との間に生まれたのが張宏です。幼少期をモンゴル高原で過ごしたことから、彼は諸国の言語に堪能だったと伝えられています。

1254年頃、父の張邦傑が若くして亡くなると、24歳にして張宏は済南張氏の当主となりました。この頃から、彼はモンゴル軍の南宋侵攻に従軍し、数々の戦いで先鋒を務めました。陽羅堡の戦いでは、400艘の船を率いて南宋水軍を打ち破るという功績を挙げています。

1259年、モンケ・カアンが急死すると、クビライは鄂州を包囲。張宏もこれに従い、戦功を重ねました。1260年にクビライが皇帝に即位すると、張宏は済南府行軍万戸・管民総管の地位を授けられました。

李璮の乱と張宏の進言

クビライが華北支配を強化しようとする中、山東地方の大軍閥、李璮が反乱を起こします。張宏は事前に李璮の叛乱を察知し、側近の姜彧と相談の上、李璮の「逆跡十事」をクビライに報告しました。

張宏は、李璮が密かに兵力を蓄え、朝廷に背く恐れがあることを具体的に訴えました。しかし、クビライは「軍国の機密であるので他者に漏らすな」と命じるのみで、張宏らの進言を受け入れませんでした。

1262年春、李璮はついに叛乱を起こしますが、周囲の支持を得られず、済南を奪取しようとします。兵力で劣る張宏は、祖父の張栄と共に済南を放棄し、クビライの下に逃れました。

その後、張宏は討伐軍の先導役を務め、済南城の包囲戦で反乱軍の糧道を絶つなどの功績を挙げました。済南城陥落後、彼は総大将のカビチに城民の助命を嘆願し、略奪を禁じさせたことで、城民は難を逃れたと言われています。

失脚と晩年

至元年間の初め、クビライによる漢人世侯解体政策の一環として、張宏は本拠地の済南から引き離され、真定路総管に任命されました。その後、済南張氏に対する相次ぐ処罰が行われ、張宏自身も過去の罪を告発され、官職を剥奪されてしまいます。

1272年、襄陽城の包囲戦が始まると、張宏は懐遠大将軍・新軍万戸として復帰。襄陽包囲戦では、裏陽の守将である呂文煥を説得し降伏させるという功績を挙げました。1273年には陥落した襄陽の管轄を任され、17万の兵を率いたとされます。

1276年、臨安の陥落によって南宋は事実上滅亡。張宏の功績も認められましたが、この頃から病にかかり、地位を退いて済南に帰還しました。その後、1287年に59歳で亡くなりました。

張宏の死後も、済南張氏は現地の有力者として勢力を保ち、カチウン王家との姻戚関係を続けていました。

張宏は、モンゴル帝国の拡大に貢献する一方で、漢人としてのアイデンティティを失わず、一族の存続に尽力しました。彼の生涯は、モンゴル帝国という巨大な権力の中で、漢人世侯がどのように生きたのかを示す好例と言えるでしょう。

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