張栄

張栄：モンゴル帝国に仕えた済南の英雄

張栄（ちょう えい、1182年 - 1264年）は、金朝末期からモンゴル帝国初期にかけて活躍した人物です。彼は済南府歴城県（現在の山東省済南市）の出身で、その堂々とした容貌と優れた武勇で知られていました。史天沢、張柔、厳実らと並び、済南を中心とする一大勢力を築き上げ、「漢人世侯」としてモンゴル帝国の支配を支えました。

金朝滅亡と自立

1210年代、チンギス・カンによる金朝侵攻が始まると、金軍は各地で敗北を重ね、華北一帯は無政府状態に陥りました。農村地帯ではモンゴル軍の略奪や盗賊が横行し、自衛のために各地で「郷兵」や「義軍」と呼ばれる自衛組織が結成されます。張栄もその一人として、済南の黌堂嶺を拠点に勢力を拡大しました。章丘、鄒平、済陽など周辺地域を勢力圏とし、モンゴル軍や盗賊の襲来に備え、山に逃れる生活を送っていました。

モンゴルへの帰順

1226年、有力な漢人世侯たちが相次いでモンゴルに帰順すると、張栄もついにモンゴルへの投降を決意します。当時の山東地方は、チンギス・カンの弟であるカチウンを始祖とするカチウン・ウルスの領地となっていました。そこで張栄は、カチウン・ウルス当主のアルチダイ・ノヤンに投降を申し出ます。アルチダイに連れられてチンギス・カンの謁見した張栄は、チンギス・カンから「山東で唯一、投降を拒んで抗戦してきたお前が、なぜ投降する気になったのか」と問われます。張栄は「山東の地は広大ですが、全ては帝（チンギス・カン）のものです。もし他に頼るべき勢力があれば、モンゴルに服従することはなかったでしょう」と答えました。この大胆な態度に、チンギス・カンは感心し、「まさにサイン・バアトル（賢明なる勇士）」と評したと伝えられています。

帰順後、張栄はチンギス・カンから金紫光禄大夫・山東行尚書省、兼兵馬都元帥、知済南府事に任じられ、正式に済南を拠点とするようになりました。モンゴルへの忠誠を示すため、孫の張宏を人質（トルカク）としてアルチダイのオルドに送ります。この張宏は、後に多国語に通じた将軍として活躍することになります。

金朝攻略戦での活躍

1230年、モンゴルによる第二次金朝侵攻が計画されると、張栄は自ら先鋒を務めることを志願し、オゴデイ・カンを喜ばせます。張栄は漢人諸侯の指揮官として、金朝攻略戦で数々の武功を挙げました。1231年の黄河渡河作戦では、自ら死士を率いて対岸の金軍を打ち破り、張・盤の山寨を陥落させるなどの戦果を挙げました。これらの山寨を陥落させた際、数万人の捕虜を得ましたが、上官のアジュルが反乱を恐れて皆殺しにしようとしたのに対し、張栄は説得してこれを阻止しました。1233年の睢陽攻略戦でも同様の事態が起こりましたが、張栄の進言により城民の虐殺は回避されました。

1234年には沛を包囲し、城の堅固な守りに苦戦しますが、城主が計画した夜襲を事前に察知して撃退し、逆に沛城を攻略します。次いで徐州を攻撃し、ここでも守将の攻撃を退けて城を陥落させました。1235年には邳州を攻略、1236年には皇族のコデンの指揮下で南宋領の棗陽・光化など3県を攻略するなど、目覚ましい活躍を見せました。

済南の復興と晩年

張栄は他の漢人世侯と同様に、荒廃した華北の復興にも尽力しました。済南に移住してきた漢人を保護し、土地や家屋を分け与えたため、済南一帯は再び活気を取り戻し、人々は平和な生活を送ることができたといいます。中統2年（1261年）、80歳という高齢になった張栄は、その功績を認められ「済南公」に封じられました。これは死後の追贈ではなく、生前の叙爵という異例の待遇であり、同時期に「安粛公」に封ぜられた張柔と共に、帝位継承戦争でクビライの勝利に貢献したことへの恩賞と考えられています。その後まもなく、張栄は83歳で亡くなり、子の張邦傑が後を継ぎました。

張栄は、モンゴル帝国の支配下で、その才能を発揮し、済南を中心とする地域の復興に大きく貢献した人物として、歴史に名を残しています。

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