張巡

張巡（ちょう じゅん）

張巡は、唐代の武将で、字は巡。709年に生まれ、757年に没した。南陽の出身で、若い頃から兵法に通じていたとされる。741年には進士となり、官吏としての道を歩み始めた。

生涯

張巡は、初め太子通事舎人として仕え、後に県令として清河へ赴任し、内政で功績を挙げた。その後、真源県令となり、横暴な官吏を誅して民衆から慕われた。

756年、安禄山が反乱を起こすと、張巡は義兵を集め、雍丘で反乱軍と戦い、これを撃破した。その後も、寧陵で敵軍を破り、河南節度使に任じられる。

安禄山が殺された後、その子安慶緒が尹子奇に命じて睢陽を攻撃させると、張巡は睢陽太守の許遠の要請に応じて援軍に向かった。許遠は張巡の能力を認め、指揮権を譲った。しかし、睢陽城は食糧が不足し、援軍も来ない状況で、張巡は苦境に立たされた。周囲は援軍を送るように進言したが、賀蘭進明は張巡の名声を妬み、援軍を拒否した。

最終的に睢陽は陥落し、張巡は捕らえられ処刑された。しかし、張巡の抵抗は、唐軍の反撃を容易にし、最終的に反乱軍は鎮圧された。

人物像

張巡は、一度聞いた兵士や住民の名前を忘れることがなく、書物を三度読めば全て記憶したという。文章も下書きなしに作成することができた。また、古来の戦法にこだわらず、状況に応じて臨機応変に戦うことを重視した。常に最前線で戦い、兵士と苦楽を共にし、賞罰を公平に行ったという。激戦の中で歯を食いしばっていたため、亡くなる頃には歯が数本しか残っていなかった。

戦闘におけるエピソード

• - 雍丘の戦い: 少ない兵力で敵軍を奇襲し、城を守り抜いた。夜襲や奇策を駆使して、敵軍を撤退させた。敵の降伏勧告を拒否し、夜間に藁人形を使って敵の矢を奪い、敵を打ち破った。

• - 睢陽の戦い: 援軍として到着した当初、尹子奇率いる大軍を破った。油断を誘って敵を攻撃し、負傷させた。兵糧が尽きると、茶や紙を混ぜて食料とした。城壁に穴を掘り、雲梯を破壊するなどの防御策を講じた。土嚢を積み上げて城壁を登ろうとする敵兵を、火を放って焼き払った。

• - 落城間際: 馬、雀、鼠を食べ尽くし、最後には自らの妾を殺して兵士に食べさせた。城内の女性も同様に食べられたという記録が残っている。

後世の評価

張巡の死後、睢陽を死守したことや、人肉を食したことについて批判もあった。しかし、張巡の友人である李翰が彼の伝記を作成し、その功績を称えた。李翰は、張巡が少数で多数を打ち破り、江淮を守って朝廷を助けたと述べ、人肉を食したのは、食糧が尽きた状況でのやむを得ない措置であり、張巡の本意ではなかったと擁護した。このことにより、張巡の評価は定まったとされている。また、小杉放庵は、張巡の功績を楠木正成の千早城の戦いと比較して賞賛している。一方で、王夫之は、張巡の戦いを玄宗の軍政の失敗による犠牲と捉える見解も存在する。

伝記資料

張巡に関する主な伝記資料として、以下のものが挙げられる。

• - 『旧唐書』
• - 『新唐書』
• - 韓愈「張中丞伝後序」
• - 浅見絅斎著『靖献遺言』

張巡は、その不屈の精神と優れた軍事能力によって、後世に語り継がれる英雄となった。

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