韓愈

韓愈（かんゆ）は、中国唐代中期を代表する文人であり、字（あざな）を退之（たいし）と称しました。768年に生まれ、824年に没するまでの生涯で、文学、思想、政治の各方面で顕著な足跡を残しました。彼の出身は河南府河陽県で、本貫は南陽郡です。

幼少期には、3歳で父を、14歳で兄を亡くし、兄嫁の鄭氏に養育されました。その後、792年に進士に及第し、官吏としてのキャリアをスタートさせました。監察御史、中書舎人、吏部侍郎などの要職を歴任し、その手腕を発揮しました。特に吏部侍郎の官職にあったことから、「韓吏部」とも呼ばれました。817年には、呉元済の乱鎮圧に裴度に従って参加しました。

韓愈の人生における大きな転機となったのが、仏教に対する批判です。819年、法門寺の仏舎利を巡る騒動において、『論仏骨表』を皇帝に提出し、仏教信仰を強く批判しました。この直言は、時の皇帝の怒りを買い、潮州刺史へと左遷されることとなりました。しかし、この事件は、彼の不屈の精神と正義感を示すものとして、後世に語り継がれています。820年に新皇帝が即位すると、再び中央に召喚され、国子祭酒に任じられました。その後も兵部侍郎、吏部侍郎を歴任し、824年にその生涯を閉じました。死後、礼部尚書が追贈されました。

韓愈の最も重要な功績の一つは、六朝時代以来の文章の主流であった四六駢儷文を批判し、秦漢以前の文体を範とする古文復興運動を提唱したことです。この運動は、修辞に偏り、内容が希薄になりがちであった当時の文章に対する、根本的な改革を求めるものでした。韓愈は、この運動の先駆者として、文学史における重要な地位を確立し、後に唐宋八大家の筆頭に数えられました。この運動に共鳴した柳宗元と共に「韓柳」と並び称されています。彼の思想は、儒教の復興を基盤としており、「原人」「原道」「原性」といった著作を通じて、その思想を展開しました。排仏論もまた、儒教復興の一環であり、中国古来の伝統を重んじる立場から、仏教の隆盛を批判したものでした。彼の思想は、高弟である李翺に受け継がれました。

詩人としての韓愈は、新奇な語句を多用する難解な詩風を特徴としました。平易で通俗的な詩風を持つ白居易とは対照的な存在であり、孟郊、張籍、李賀、王建、賈島など、「韓門の弟子」と称される多くの詩人を輩出しました。彼の詩は、独特の表現と深い思想性を持ち、中唐の詩壇に大きな影響を与えました。しかし、彼の名声を不動のものとしたのは、散文作家としての功績であり、中国の近千年間の散文の始祖とも称されています。

彼の著作は、文集『韓昌黎集』40巻と『外集』10巻にまとめられています。これらの作品は、彼の文学的才能を示すだけでなく、彼の思想や人生観を知る上で貴重な資料となっています。また、『旧唐書』や『新唐書』にも彼の伝記が記されており、彼の生涯や業績を知ることができます。韓愈は、単なる文人としてだけでなく、思想家、政治家としても傑出した人物であり、その影響は、現代に至るまで色褪せることはありません。

関連事項として、彼の古文復興運動、唐宋八大家、駢文、柳宗元、賈島（「推敲」の由来）、弱肉強食（韓愈の『送浮屠文暢師序』が出典）、韓江、ハンユスクスなどが挙げられます。

韓愈は、中国文学史における重要な人物の一人であり、彼の作品や思想は、今日においても多くの人々に読まれ、研究されています。

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