張東蓀

張東蓀（ちょうとうそん）

清末から中華人民共和国期にかけて活動した中国の政治家、ジャーナリスト、そして哲学者です。旧名を万田、字を聖心といいました。初期には立憲派として政治に関わり、その後はジャーナリストや唯心論の哲学者として、また政党活動家として重要な役割を果たしました。

初期活動と言論界での活躍

清朝末期に日本へ留学し、東京帝国大学や私立哲学館（現在の東洋大学）で学びました。この時期に張君勱と親交を結び、また梁啓超らが推進する立憲派の考え方に共鳴します。しかし、1911年の辛亥革命が勃発すると帰国し、革命派の指導者である孫文（孫中山）が樹立した臨時政府で秘書を務めることになります。

孫文が臨時大総統を辞任した後、張東蓀は言論界に活躍の場を移します。上海で発行されていた『大共和報』や雑誌『庸言』、『正誼』の主筆を歴任し、さらに影響力のある『時事新報』では総編集を務めました。また、教育にも携わり、上海中国公学では大学部の部長と教授を兼任しました。1919年には北京で雑誌『解放与改造』（後に『改造』と改題）を創刊し、その総編集として論陣を張ります。翌1920年には、梁啓超らとともに講学社を発起するなど、教育と思想啓蒙活動にも力を入れました。

哲学活動と政党への参加

思想家としては唯心論の立場を明確にし、1927年の雑誌『哲学評論』創刊に参加したほか、『唯物弁証法論戦』という著作では主編として唯心論の観点からマルクス主義（唯物論）への批判を展開しました。

政治活動においては、1932年4月に張君勱と共に北平で中国国家社会党を結成し、機関紙『再生』を発行します。1934年12月には、広東省の実力者だった陳済棠の招きに応じて広州で学海書院を設立し、自ら院長に就任しました。しかし、両広事変で陳済棠が失脚すると広州を離れ、清華大学文学院の代理院長や教授、国民政府の機関での参議などを歴任しました。

日中戦争下の活動と逮捕

1937年に日中戦争が始まると、張東蓀は抗戦体制下で燕京大学教授や国防参議会、国民参政会のメンバーとして国政に関与します。1941年には、国家社会党も加わっていた統一建国同志会が民主政団同盟（後の中国民主同盟、民盟）に改組される際に、その中央常務委員（後に秘書長）に選出されました。しかし同年12月、北平に残っていた張東蓀は日本軍によって逮捕され、収監されてしまいます。この時、傀儡政権への協力を強く迫られましたが、彼はこれを断固として拒否しました。その後釈放されたものの、北平からの退去は許されず、事実上の軟禁状態の中で執筆活動に専念することを余儀なくされました。1944年に民主政団同盟が中国民主同盟へと改組されると、引き続き中央常務委員に選ばれています。

戦後の選択と不遇な晩年

終戦後、1946年1月に開催された中国政治協商会議（旧政協）に出席しました。同年8月には、かつての盟友である張君勱が率いる国家社会党が民主憲政党と合併して中国民主社会党となり、蔣介石の国民政府への支持を表明して民盟から離脱しました。しかし、国民党による一党独裁的な指導に不満を抱き、「中間路線」の追求を主張していた張東蓀は、張君勱との絶縁を宣言し、民盟に留まることを選択します。翌1947年1月の民盟会議では秘書主任に就任し、その後は中国共産党との連携を深めていきました。特に、北平の無血開城を実現するために、傅作義に働きかけるなど重要な貢献を果たしました。

中華人民共和国が成立した後も大陸に留まり、清華大学哲学系主任、同校校長代理、中央人民政府委員、中国人民外交学会政務顧問、中国人民政治協商会議全国委員会委員、政務院（後の国務院）文化教育委員会委員など、多くの要職を歴任しました。しかし、1952年に全ての公職を辞任すると、政治の表舞台から姿を消します。そして文化大革命が始まった後の1968年1月、突然逮捕され、北京の特殊監獄「秦城」に収監されました。そのまま獄中で過ごし、1973年6月2日に死去しました。享年87でした。

主な著書には、唯心論哲学を体系化した『科学与哲学』、『新哲学論叢』、『道徳哲学』、『哲学』、『認識論』のほか、社会や文化に関する著作として『知識与文化』、『思想与社会』、『理性与民主』などがあります。

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