張皇后 (弘治帝)

張皇后：明朝の栄華と失意を象徴する皇后

張皇后（ちょうこうごう）は、明の第9代皇帝である弘治帝（こうちてい）の皇后であり、その生涯は、宮廷内の権力闘争の縮図とも言える、波乱に満ちたものでした。

生い立ちと皇后冊立

張皇后は、河間府興済県（現在の河北省）出身で、太学生の張巒（ちょうらん）と金氏の長女として生まれました。成化23年（1487年）、皇太子であった朱祐樘（しゅゆうとう、後の弘治帝）の妃に選ばれ、同年、朱祐樘が即位すると、皇后に立てられました。

弘治帝との結婚生活は、皇帝と皇后という立場を超え、民間の夫婦のように親密であったと伝えられています。夫の寵愛を一身に受けた張皇后は、その一族も栄華を極めました。父の張巒は公爵に封じられ、二人の弟をはじめとする一族は高官に抜擢され、妹も公卿に嫁ぐなど、一族全体が繁栄を謳歌しました。

しかし、その一方で、一族の貪欲な振る舞いは多くの恨みを買うことにもなりました。ただし、皇后自身は気弱な性格であり、一族の行動を制御することはできなかったとされています。

皇太后としての苦悩

弘治帝の崩御後、張皇后は皇太后となり、その後の人生は波乱に満ちたものとなりました。息子である正徳帝（しょうとくてい）が即位したものの、正徳帝が後継者を残さずに崩御したため、張皇太后は、大学士らの要求を受け入れ、先代の皇帝の叔父たちを差し置いて、その子の世代である嘉靖帝（かせいてい）を皇帝に即位させました。

しかし、この嘉靖帝の即位が、張皇太后の更なる苦難の始まりでした。嘉靖帝の生母である蒋氏（しょうし）が、過度の礼遇を要求し、ついには皇后としての格式を強奪しようとするなど、両者の間には大きな亀裂が生じました。さらに、嘉靖帝は張皇太后に対して「自分は暗殺されようとしている」とまで言い放ち、憎しみを露わにしたと伝えられています。

その後、「大礼の議」を経て、嘉靖帝の実父である興献王（こうけんおう）が皇帝として追尊され、その母妃や正妃が次々と尊奉されていく中で、張皇太后は、ただ一人「皇伯母皇太后」と改号され、孤立を深めました。晩年には、弟たちが罪に問われ投獄されるなど、憂憤のうちに嘉靖20年（1541年）に崩御しました。

死後の評価と流言

張皇后の死後、「孝康靖粛荘慈哲懿翊天賛聖敬皇后（こうこうせいしゅくそうじせついよくてんさんせいきょうこうごう）」の諡号が贈られましたが、その諡号「孝康」は、かつて建文帝（けんぶんてい）が嫡母の懿文太子妃（いぶんたいしひ）常氏（じょうし）に贈ったものの、永楽帝（えいらくてい）によって廃されていたものであり、嘉靖帝の意図的な「追貶（ついへん）」であったと指摘されています。しかし、それでも弘治帝の泰陵（たいりょう）に合葬されています。

南[[明]]においては、常氏の諡号が回復されるとともに、張皇后の諡号も「孝成靖粛荘慈哲懿翊天賛聖敬皇后」に改められました。

張皇后が崩じた際、様々な流言が飛び交いました。その一つが、嘉靖帝の生母である蒋氏の死に関与した、あるいは蒋氏と不仲であったため、唐の憲宗の皇后である郭氏（かくし）が、その末路を宣宗によって殺害されたのと同様に、嘉靖帝によって殺害されたというものです。また、嘉靖帝の継后である張氏（ちょうし）とは親類関係にないものの、この件で跪いて嘉靖帝を説得しようとしたところ、廃されたという話も残っています。

子女

張皇后には、以下の子供がいました。

正徳帝（しょうとくてい）朱厚照（しゅこうしょう）
太康公主（たいこうこうしゅ）朱秀栄（しゅしゅうえい） - 5歳で死去
蔚悼王（うつとうおう）朱厚煒（しゅこうい） - 夭折

まとめ

張皇后の生涯は、明朝の歴史における複雑な宮廷内の権力闘争と、その中で翻弄された女性の悲劇を象徴しています。彼女が、弘治帝の皇后として、一時は栄華を極めたものの、その後の皇太后としての苦難、そして悲劇的な結末は、後世に深い教訓を与えています。

彼女は、歴史の中で忘れ去られることなく、その存在が、明朝の歴史を語る上で重要な位置を占め続けています。

脚注

『明孝宗実録』
『明武宗実録』
『明世宗実録』

もう一度検索