弾左衛門

弾左衛門：江戸の被差別民を統括した頭領の実像

弾左衛門（だんざえもん）は、江戸時代に穢多・非人身分の頭領として、幕府から特権を与えられ、強大な権勢を誇った人物です。幕府からは「穢多頭（えたがしら）」と呼ばれましたが、自らは代々「長吏頭（ちょうりがしら）矢野弾左衛門」と称しました。浅草を本拠としたため、「浅草弾左衛門」とも呼ばれています。

弾左衛門の成立

戦国時代、関東の被差別民の有力者は小田原近在の太郎左衛門でしたが、1590年に徳川家康が関東を支配すると、家康は太郎左衛門の支配権を剥奪し、代わりに弾左衛門にその地位を与えました。これにより、弾左衛門は関東一円の被差別民を統括する立場となったのです。

弾左衛門の支配

弾左衛門は、非人、芸能民、一部の職人、遊女屋などを支配したとされています。特に、皮革加工や燈芯、竹細工などの製造販売を独占し、莫大な資金を蓄えていました。皮革産業は武具製造に欠かせない軍需産業であり、弾左衛門は幕府から保護されていました。

しかし、弾左衛門の支配は必ずしも絶対的なものではありませんでした。1708年には、京都の傀儡師が弾左衛門の興行妨害を訴え、勝訴しています。また、1713年初演の歌舞伎『助六』は、弾左衛門の支配からの解放をテーマにしたもので、悪役として描かれた「髭の意休」は、当時の弾左衛門をモデルにしたと言われています。

弾左衛門の特権と悪評

弾左衛門の地位は世襲とされ、幕府から二本差などの特権を与えられました。支配下からの収益は莫大で、その生活は贅沢であったと伝えられています。格式は1万石、財力は5万石に匹敵するとも言われました。しかし、その一方で、支配下の被差別民の困窮との対比から、歴代の弾左衛門は悪評も絶えませんでした。

弾左衛門屋敷

弾左衛門屋敷は、山谷堀の今戸橋と三谷橋の間に位置し、現在の東京都立浅草高等学校の運動場あたりにありました。屋敷内には役宅や私宅のほか、蔵や神社があり、多くの役人家族が暮らしていました。弾左衛門は、支配地内の被差別民だけでなく、関東近国の天領の被差別民についても裁判権を持ち、罪を犯した者を裁いていました。

弾左衛門の終焉

幕末には、第13代弾左衛門が長州征伐で幕府に協力した功績により、平民に引き上げられ、弾内記と名乗りました。明治維新後には弾直樹と改名し、近代皮革・洋靴産業の育成に尽力しました。

弾左衛門の現在

弾左衛門の墓は、東京都台東区今戸の本龍寺にあります。墓碑には、15代目の子孫まで矢野姓で記されています。また、兵庫県にある墓地には「弾」と刻まれた墓があり、明治以降の子孫は弾姓を名乗っているという説もあります。

銀座で開催された特別展では、弾直樹の子孫を名乗る人物が現れ、話題となりました。

弾左衛門は、江戸時代の被差別民を統括した頭領として、その名を知られています。その権勢と悪評は、現代にも語り継がれています。

もう一度検索