役料

江戸幕府の役職手当：役料制度の変遷

江戸幕府において、武士は主君から知行（土地）を与えられ、それに対応する軍役を負うのが一般的でした。しかし、幕府の役職は知行高だけでなく、職務能力も考慮して選抜されるようになり、優秀な人材を要職に登用する際には、知行高だけでは生活が困窮するケースも出てきました。この問題を解決するため、幕府は役職手当として「役料」制度を導入しました。

役料制度の創設と変遷

寛文5年(1665年)、番方を中心に役料制度が制定されました。これは、役職の重要性や職務の困難さに応じて、米や金銭を支給する制度です。当初は、大番頭2000俵、書院番頭1000俵など、役職ごとに支給額が定められていました。しかし、財政状況の悪化などから、天和2年(1682年)には一時的に廃止され、役料は知行高に組み込まれました。

その後、元禄2年(1689年)頃より特定の役職への役料支給が再開され、元禄5年(1692年)には正式に役料制度が復活しました。この時の制度は、役職ごとに一定の石高を基準とし、その基準を満たさない知行高の役職者に対してのみ、定額の役料が支給される仕組みでした。例えば、留守居や大番頭は5000石を基準とし、それ以下の知行高の役職者には1000俵の役料が支給されるなど、役職ごとに異なる基準と支給額が設けられました。

足高の制と役料制度の維持

幕府財政の制約と役料制度の維持を両立させるため、享保8年(1723年)には「足高の制」が導入されました。これは、役職ごとに基準高を設定し、基準に満たない分の石高を在任中に限定して加増する制度です。足高の制は、役料制度と併用され、幕府財政の負担軽減と役職者の生活安定の両立を目指した制度と言えるでしょう。ただし、遠国奉行など、特に費用のかかる役職には、足高とは別に役料が支給されるなど、例外も存在しました。

役金への移行と制度の終焉

慶応3年(1867年)、幕府財政が金銀中心に移行するのに伴い、役料は「役金」に統一されることとなりました。布衣以上の足高、役料、役扶持などが廃止され、金銭による支給に一本化される予定でしたが、同年、大政奉還によって役金制度は実際に運用されることなく廃止されました。

役料制度の意義

役料制度は、江戸幕府の安定した運営に貢献した側面を持っています。優秀な人材を要職に登用するためのインセンティブとなり、幕府行政の効率化に寄与したと考えられます。一方で、財政状況との兼ね合いを図りながら制度の維持に努めた様子も伺え、幕府の財政事情と役職者への待遇のバランスを取るための様々な工夫が凝らされていたことが分かります。役料制度は、江戸幕府の政治、経済、社会構造を理解する上で重要な制度の一つと言えるでしょう。

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