役身折酬

役身折酬（えきしんせっしゅう）

役身折酬とは、古代日本において行われた、労働による債務返済制度のことです。「身を役（つか）いて折（へ）ぎ酬（むく）ゆ」と訓読されます。

概要

古代社会では、債務を返済できない債務者が、債権者によって使役されたり、奴婢（ぬひ）にされたりする事例が少なくありませんでした。日本も例外ではなく、持統天皇3年（689年）には、朝廷が債務によって奴婢となった人々を解放するよう命じています。

大宝律令においては、他者を奴婢とした者を罰する規定（「賊盗律」）が設けられました。その一方で、債権者が債務者の資産を押収しても、全ての債権を回収できない場合には、未回収分の範囲に限って債務者を使役できる役身折酬の規定が定められました（「雑令」）。

さらに、官物（かんもつ）の横領など、特定の罪を犯した者が、問題となった財物を弁償できない場合には、1日あたり布2尺6寸（約77センチメートル）に換算して、労働によって弁償させることとされました（「獄令」）。ただし、この制度を利用した場合でも、法律上の身分は良民のままである点に注意が必要です。労働期間は最長5年間と定められていました。

民間の役身折酬には、期限の制約がありませんでした。そのため、貴族や寺社が、生活に困窮する農民に対して私出挙（しすいこ）などを利用して多額の債務を負わせ、役身折酬を永続的に行わせることで、実質的な奴婢とする事例も見られました。

延喜14年（914年）に書かれた三善清行（みよしきよゆき）の『意見十二箇条（いけんじゅうにかじょう）』には、寺家が良民を寺奴（じぬ）としている問題が取り上げられています。このことから、権門勢家（けんもんせいか）が、荘園（しょうえん）の労働力を集める手段として、役身折酬を利用していた可能性が指摘されています。

脚注

青木和夫「役身折酬」（『国史大辞典 2』吉川弘文館、1980年） ISBN 978-4-642-00502-9
荊木美行「役身折酬」（『平安時代史事典』角川書店、1994年） ISBN 978-4-04-031700-7
水本浩典「役身折酬」（『日本歴史大事典 1』小学館、2001年） ISBN 978-4-095-23001-6

関連項目

律令制
* 債務者監獄

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