奴婢

奴婢制度の歴史とその背景

奴婢（ぬひ）は、主に古代から近世にかけて、日本、中国、朝鮮で存在した奴隷制度を示す社会階級である。この制度は、各地域で異なる経緯を辿ったが、共通して身分制度の中で中下層に位置付けられていた。

日本における奴婢制度

日本での奴婢としての身分制度は、大宝律令に基づいて規定され、隋・唐の律令制から影響を受けつつも日本独自の形式へと発展した。古代日本では、卑弥呼の時代から既に奴婢が存在し、その社会的な役割は様々であった。たとえば、神功皇后の三韓征伐の際には、新羅の捕虜が奴婢として連れ去られたとの記録も残る。

奴婢は「ヤツコ（夜都古）」と呼ばれ、奴隷の子孫や捕虜、罪人などが奴婢として扱われることが多かった。律令法では、良民を拉致して奴婢となることが禁じられていたが、逆に言えば、奴婢にされることが常態的に行われていた可能性を示唆している。また、経済的理由から奴婢になる者も多かった。

その後、律令制の中で奴婢は田畑と同じような財産として扱われ、売買が行われるようになった。特に持統天皇の時代には、一度は奴婢の売買が禁止されたが、翌年には官司への届出を条件に再び売買が許可された。このように、制度は常に変遷を辿っていた。

公奴婢（官奴婢）は朝廷が所有し、一定の条件を満たせば良民に昇格することができた。一方、私奴婢は民間の所有物であり、主に家庭業や農作業に従事した。奴婢の社会的地位は低く、労働力として扱われ、法的にも非常に厳しい規制が存在した。逃亡した奴婢に対しては、報奨が与えられ、逆に捕まえた場合は元の所有者に報酬が支払われるという仕組みもあった。

このような奴婢制度は、律令制が崩壊するにつれて薄れ、平安時代中期には次第に管理が甘くなっていった。鎌倉時代には人身売買の禁止令が出されたものの、実際には乱妨取りや身売りが依然として行われていた。

中国における奴婢制度

中国において「奴婢」は、奴隷を指す言葉として広く使われており、良民に対する賤民の一形態であった。奴隷制度は古くから存在し、労働力の重要な部分を担っていた。特に春秋・戦国時代において、国の併呑が進む中、功利主義に基づくさまざまな政策が取られた。奴婢の中には国が保有する官奴婢と個人が所有する私奴婢があり、これらの身分は戦争捕虜や経済的困窮によって決定される場合も多かった。

官奴婢の多くは官営工場や牧場で働き、法的に保護されつつも強制労働が求められる状況にあった。一方、私奴婢は大地主に所有され、家事や農作業に従事していた。槍のように多くの奴婢が売買されたことが示されており、その社会的背景には重罪を犯した者や捕虜なども含まれた。

朝鮮における奴婢制度

朝鮮においては、奴婢は主人の所有物として扱われ、売買や譲渡が普通に行われていた。高麗時代には制度が完成し、特定の職業に従事するための自由がなく、主として戦争の捕虜や犯罪者、窃盗犯が奴婢にされていた。特に王朝が滅亡する際、多くの人々が奴婢として扱われることがあった。

李氏朝鮮では、身分制度が厳格に規定されており、両班や常民の下に奴婢が位置していた。最盛期には王族や貴族が多くの奴婢を所有し、法律で制限が設けられていたものの、実際には広範囲にわたり交易が行われていた。

1894年の甲午改革により制度は法的に廃止されるが、その後も差別的な社会構造はしばしば残り続けた。実質的な廃止は1909年とされ、教育の機会が与えられたり、身分の解放が進むなどの変化が見え始めた。しかし、近年においても残る人身売買などの問題は依然として解決の途上にあると言える。

結論

これらの地域における奴婢制度は、社会の構造や文化に大きな影響を与えた。奴婢は人間としての尊厳を奪われ、労働力として扱われる一方で、歴史の中でその存在がどのように変化していったのかを知ることは重要である。奴婢制度の廃止後も、社会には残された課題があり、その影響は現代にも及ぶ。

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