待宵の小侍従

小侍従（こじじゅう）は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて活躍した女流歌人であり、その生没年は1121年頃から1202年頃と推定されています。女房三十六歌仙の一人に数えられ、石清水八幡宮の別当であった光清を父に持ち、母は小大進です。太皇太后藤原多子に仕えたことから太皇太后宮小侍従、あるいは大宮小侍従と呼ばれました。また、『平家物語』に登場するエピソードから、待宵の小侍従（まつよいのこじじゅう）の名でも知られています。『源平盛衰記』では、高倉天皇の在位中は阿波の局と名乗っていたとされています。

生涯

小侍従は、二条天皇、太皇太后多子、高倉天皇に女房として仕えました。1179年（治承3年）に出家した後、再び多子に仕えています。この期間に多くの和歌を詠み、私家集である『太皇太后宮小侍従集』や『小侍従集』の他、『千載和歌集』以降の勅撰集、その他の私撰集にも作品が収録されています。

1200年（正治2年）には、後鳥羽院の求めに応じて『正治二年初度百首』のために歌を詠進しており、その内容から、この頃には80歳であったと推定されています。翌1201年（建仁元年）12月28日の『石清水社歌合』を最後に、その消息は途絶えています。墓所については、『石清水祠官系図』に「墳塔垂井在之云々」とありますが、現在は不明です。

逸話

『平家物語』には「待宵の小侍従の沙汰」として、太皇太后多子からの「待つ宵と帰る朝とは、いづれかあはれはまされるぞ」という問いに対し、小侍従が即座に

待つ宵のふけ行く鐘の声ごとに　あはれまさるは帰る朝け

と詠んだ逸話が記されており、これが「待宵の小侍従」という名の由来とされています。また、背が低かったことから「小侍従」と呼ばれたとも伝えられています。

鴨長明は、当時の評判が高かった女流歌人として、殷富門院大輔と共に小侍従の名を挙げています。長明は、落ち着いた雰囲気の大輔に対し、小侍従は華やかで人を驚かせるような表現を得意とし、誰よりも返歌の名手であると評しました。この評価は、『歌仙落書』の「風體あまりて比興を先とせり 青海波といふ舞をみる心地こそすれ」という評にも通じるところがあります。

ある時、後白河院の提案で公卿や女房たちが秘密の懺悔を語り合う場が設けられました。小侍従は過去に一夜を共にした男性との思い出を生々しく語り、その場にいた人々の注目を集めましたが、実はその男性は、当時天皇であった後白河院自身でした。

高倉天皇に仕えていた頃の小侍従は非常に貧しく、夏冬の衣更えもままならないほどでした。宮仕えに支障をきたすと考えた彼女は、広隆寺の薬師如来に七日間参籠して祈願しましたが、効果がありませんでした。絶望した小侍従は、尼になるしかないと思いながら、以下の歌を詠みました。

世の中をいかで渡らむあまとならむも　我のみならず嘆く人やある

すると、まどろみの中で仏から白い着物を賜る夢を見ました。気を取り直して参内したところ、八幡の別当から好意を寄せられるようになり、次第に運が開け、高倉天皇からの信任を得て出世したと伝えられています。

小侍従が重病で床に伏せっていた頃、西行が見舞いに訪れました。小侍従は、少し体調が良くなったと語り、誰にも聴かせたことのない琴の秘曲を西行に披露しました。西行はその時、小侍従の命と共に秘曲が絶えることを悲しんだと言われています。しかし、後に小侍従は病から回復し長寿を全うし、西行の死後には彼を追悼する歌を詠む立場となりました。

筑後八女の東部、現在の八女市黒木町には、近世初期の『黒木物語』という写本が伝わっています。この物語によると、黒木助能という武士が都で後鳥羽院に笛の才能を認められ、その褒美として待宵小侍従を賜ったとされています。当時小侍従は、徳大寺左大臣実定の愛妾で妊娠しており、出産後に黒木へ下向したとされています。その子供である八郎丸は、実は後鳥羽院の落胤であったとされています。八郎丸は実定のもとで元服し、後堀河院から星野谷の領地を賜り、母である小侍従と再会し、助能の養子として星野氏の祖となったとされています。これらの伝承は近世初期以前の史料には見られないものの、都の「上臈女房」という存在は、地域の人々にとって魅力的なモチーフとなり、「待宵小侍従」の名を伴った様々な郷土史的な伝承が生まれ、現代にも受け継がれています。

作品

勅撰集

『千載和歌集』をはじめとする多くの勅撰和歌集に作品が収録されている。

定数歌・歌合

三百六十番歌合（1200年）-「小侍従 後白川院女房」の名で18首

私家集

『太皇太后宮小侍従集』 - 187首
『小侍従集』（加賀前田家尊経閣文庫蔵本） - 101首

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