後二条師通記

『後二条師通記』は、平安時代後期を代表する公卿、藤原師通が記した日記です。別名として『後二条関白記』や『後二条殿記』とも呼ばれています。この日記は、永保3年（1083年）から康和元年（1099年）までの約17年間にわたる師通の日々の出来事を記録したもので、当時の貴族社会の状況を知る上で貴重な史料となっています。

しかしながら、『後二条師通記』は完全に現存しているわけではありません。原本は一条家に伝来していたとされていますが、現在残されているのは、一部が欠損した状態の写本です。中でも、寛治7年（1093年）の記述を含む師通自身の自筆本は、その貴重な史料価値から国宝に指定されています。この自筆本は、現在、陽明文庫に所蔵されています。

陽明文庫には、自筆本以外にも、藤原頼長によって書写された古写本も伝えられており、こちらも国宝に指定されています。さらに、宮内庁書陵部には、これらよりも時代が下る新写本も所蔵されています。これらの写本を比較検討することで、『後二条師通記』の本文の正確性を高める研究が進められています。

『後二条師通記』の内容は、師通自身の官職生活や宮廷での出来事、そして朝廷を取り巻く政治状況などが詳細に記されています。単なる日記にとどまらず、当時の貴族社会の政治、文化、生活を知る上で極めて重要な情報源となっています。同時代の他の日記、『中右記』（藤原宗忠）や『時範記』（平時範）といった史料と比較検討することで、平安時代後期の社会状況をより多角的に理解することが可能になります。

特に注目すべきは、永長元年（1096年）の記述です。この巻には、同年に関東地方を襲った永長地震の被害状況が詳しく記されています。特に駿河国における津波の被害は凄まじく、四百戸余りが流出するなど、その規模の大きさがうかがえます。この記述は、当時の地震の規模や被害状況を具体的に知る上で極めて貴重な情報であり、災害史研究においても重要な史料となっています。

『後二条師通記』は、平安時代後期の社会や文化を理解する上で欠かせない重要な史料です。現存する写本は、その歴史的価値から国宝に指定されており、日本歴史研究においてその重要性が広く認識されています。今後とも、これらの史料を丁寧に保存・研究していくことが、未来へと歴史を繋いでいく上で必要不可欠です。

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