平時範

平時範：平安時代後期の多才な貴族

平時範は、平安時代後期を代表する貴族の一人です。桓武平氏高棟流に属し、尾張守を務めた平定家を父に持ちました。正四位下・右大弁にまで昇進するなど、華々しい経歴を残しています。

華麗なるキャリア：地方官から京官へ

時範のキャリアは文章生から始まりました。その後、加賀掾を経て、白河天皇の治世初期には六位蔵人や左衛門尉といった重要な役職を歴任します。地方官としての経験も豊富で、越中守として地方行政に携わった時期もあります。白河院政期に入ると、京官に戻り勘解由次官に就任。その後、五位蔵人、右少弁、右衛門権佐を兼任するなど、重要な地位を歴任しました。この三職を兼帯した時期は、彼の能力の高さを示すものと言えるでしょう。

承徳2年（1098年）には蔵人衛門佐を退き、左少弁、右中弁へと順調に昇進していきます。康和4年（1102年）には正四位下・権左中弁に叙任され、堀河天皇の治世においては右大弁にまで上り詰めました。これは、当時の朝廷における彼の高い地位と影響力の証左と言えるでしょう。また、摂関家である藤原師通の家司を務めていたことも特筆すべき点です。

多様な才能と『時範記』

時範は優れた能力を持つ人物として知られています。仏画の腕前は高く評価されており、文筆にも秀でていました。特に、康和元年（1099年）に因幡守として赴任した際に記した日記『時範記』は、当時の地方行政の実態や因幡の状況を知る上で貴重な史料となっています。この日記は、時範の鋭い観察眼と優れた文章力、そして実務家としての経験が凝縮された記録と言えるでしょう。

出家と最期

鳥羽天皇の治世である天仁元年（1108年）10月、時範は右大弁を辞して出家、定恵（または貞恵）と名乗りました。そして翌天仁2年（1109年）2月10日、56歳でこの世を去りました。

まとめ：実務家としての貢献と多様な才能

平時範は、地方官としての経験、京官としての活躍、そして『時範記』といった貴重な史料を残した、実務能力と多才さを兼ね備えた人物でした。彼の生涯は、平安時代後期の貴族社会を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。 彼の功績は、単なる役職の羅列ではなく、時代の変化の中で着実にキャリアを積み重ね、行政に貢献した実務家としての側面が強く、また優れた文筆力や芸術的才能も持ち合わせていた点にあります。 『時範記』は、単なる日記ではなく、歴史研究においても貴重な一次史料として高く評価されているのです。 時範の生涯は、平安時代の政治や社会、文化を知る上で極めて重要な役割を果たしています。

参考文献

木本好信「『時範記』と平時範」（『平安朝日記と逸文の研究』、おうふう、1987年）
宮崎康充「平時範に関する覚書」（『書陵部紀要』41号、1989年）
* 宮崎康充編『検非違使補任 別巻』続群書類従完成会、2006年

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