後藤乾一

後藤乾一について

後藤乾一（ごとう けんいち）氏は、1943年3月30日生まれの日本の政治学者・歴史学者です。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授を経て、現在は同大学の名誉教授を務めています。専門は、日本と東南アジアの関係史、特に東南アジア近現代史であり、日本とインドネシアの関係に関する研究で知られています。また、公益財団法人国際文化会館の理事も務めています。

東京都出身の後藤氏は、1965年に早稲田大学第一政治経済学部政治学科を卒業後、アジア経済研究所の研究員となりました。その後、コーネル大学大学院で政治学修士号を取得し、早稲田大学社会科学研究所の助手、教授を経て、アジア太平洋研究科の創設にも尽力しました。

後藤氏の研究は、日本と東南アジアの近現代史における複雑な関係性を深く掘り下げ、特に日本の「南進」政策が東南アジア諸国に与えた影響を多角的に分析しています。1986年には『昭和期日本とインドネシア』で発展途上国研究奨励賞、1996年には『近代日本と東南アジア』でアジア太平洋賞特別賞とNIRA政策研究・東畑記念賞を受賞するなど、その業績は高く評価されています。

ブキチンギの穴（日本の穴）

後藤氏は、インドネシアのブキティンギにある、日本軍が建設に関与したとされる地下壕に関する研究も行っています。この地下壕は「ブキチンギの穴（日本の穴）」と呼ばれ、第二次世界大戦中に日本軍がジャワ島などから連行した労務者を酷使して建設したとされています。壕の奥には、断崖絶壁に通じる穴があり、そこから死んだ労務者の遺体を投げ捨てたと伝えられています。現地住民の間では、この穴で多くの労務者が虐殺されたという証言があり、3000人もの犠牲者が出たとも言われています。

1987年、インドネシア政府はここを国定公園として整備しましたが、当初は労務者の殺害遺棄現場としていました。しかし、その後の調査で、虐殺はなかったとする証言も出てきています。現在では、観光地として公開されていますが、今でも現地のガイドは労務者が殺されたと説明することがあるなど、歴史認識を巡る議論が続いています。

東ティモールの戦時支配の歴史

後藤氏は、東ティモールにおける日本の戦時支配についても研究しています。1999年の朝日新聞夕刊で、「過酷な戦時支配の歴史」と題して、日本軍によって東ティモールで約4万人の島民が死亡したと主張しましたが、その根拠は不明のままです。

主要な著書

後藤氏は、数多くの著作を通じて、日本と東南アジアの歴史認識の深化に貢献しています。主な著書には以下のようなものがあります。

『火の海の墓標――ある<アジア主義者>の流転と帰結』（1977年）
『昭和期日本とインドネシア――1930年代「南進」の論理・「日本観」の系譜』（1986年）
『近代日本とインドネシア――「交流」百年史』（1989年）
『近代日本と東南アジア――南進の「衝撃」と「遺産」』（1995年）
『<東>ティモール国際関係史――1900-1945』（1999年）
『国際主義の系譜――大島正徳と日本の近代』（2005年）
『「沖縄核密約」を背負って――若泉敬の生涯』（2010年）
『東南アジアから見た近現代日本――「南進」・占領・脱植民地化をめぐる歴史認識』（2012年）
『近代日本の「南進」と沖縄』（2015年）
『「南進」する人びとの近現代史　小笠原諸島・沖縄・インドネシア』（2019年）

これらの著作は、日本と東南アジアの歴史を多角的に捉え、現代社会にも繋がる重要な視点を提供しています。

後藤乾一氏は、日本と東南アジアの歴史研究において、その深い知識と分析力で重要な役割を果たしており、その業績は今後も長く語り継がれるでしょう。

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