従容録

『従容録』（しょうようろく）は、13世紀初頭のモンゴル帝国時代に編纂された仏教書であり、禅宗、特に曹洞宗において非常に重要な公案集として位置づけられています。この書は、燕京（現在の北京）にあった従容庵の住職であった万松行秀（ばんしょうぎょうしゅう）によって編纂され、全六巻から構成されています。1223年に完成しました。

正式名称は「万松老人評唱天童覚和尚頌古従容庵録（ばんしょうろうじんひょうしょうてんどうかくおしょうじゅこしょうようあんろく）」と言い、その名の通り、単なる公案集ではなく、公案に対する詳細な解説と批評が加えられている点が特徴です。

『従容録』の中核をなすのは、中国の禅僧である宏智正覚（わんししょうかく）が残した頌古百則（じゅこひゃくそく）です。頌古とは、過去の禅僧の言葉や行いを詩の形で表現したもので、禅の真髄を伝えるための重要な手段です。万松行秀は、この頌古百則に対し、以下の3つの要素を加えています。

1. 垂示（すいじ）: 各公案の導入部分として、その背景や意味合いを説明する序論的な批評です。これにより、読者は公案に取り組むための視点を得ることができます。
2. 著語（ちゃくご）: 公案の一部分、特に重要な箇所を取り上げ、短い言葉で注釈を加えるものです。これは、読者が公案の核心に迫るための手助けとなります。
3. 評唱（ひょうしょう）: 公案全体に対する詳細な評釈で、万松行秀自身の解釈や洞察が示されています。これにより、公案が持つ多面的な意味が明らかにされ、読者の理解が深まります。

『従容録』は、単なる公案の提示にとどまらず、その解釈を通じて禅の思想を深く理解するための道標となる書物です。特に曹洞宗では、座禅の実践と並んで、公案を通して自己の内面を探求することが重視されており、『従容録』はそのための重要なテキストとして位置づけられています。

また、禅宗の公案集としては、『無門関』や『碧巌録』も非常に有名ですが、『従容録』はそれらとは異なる独自の視点を提供しており、禅の思想を多角的に理解する上で欠かせない文献です。これらの公案集は、禅の修行者だけでなく、哲学や思想に興味を持つ人々にとっても、示唆に富んだ内容を含んでいます。

『従容録』は、禅の奥深い世界への扉を開き、読者を自己探求の旅へと誘う、重要な仏教文献と言えるでしょう。

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