御幸村 (神奈川県)

御幸村（みゆきむら）

御幸村は、1889年（明治22年）から1924年（大正13年）まで、神奈川県橘樹郡に存在した村です。現在の川崎市幸区の東部、中原区の東部に位置し、多摩川の恵みを受けた地域でした。

概要

御幸村は、多摩川沿いに広がる平坦な地形を有し、村域面積は約12.955平方キロメートルでした。1914年（大正3年）時点での人口は約4,226人、世帯数は485戸でした。村役場は大字戸手に置かれ、1913年（大正2年）には西洋館風の二階建ての庁舎が新築されました。

主要な産業は農業で、米や麦の栽培に加え、桃などの果樹栽培、養蚕も行われていました。多摩川沿いでは砂利の採取も盛んでした。

地理

村の西側を多摩川が流れ、豊かな水源となっていました。

歴史

村名の由来

村の名前は、1884年（明治17年）に明治天皇が小向村（現在の幸区小向）の梅林に行幸されたことを記念して命名されました。この行幸は、依田学海が梅林を訪れた際に詠んだ漢詩が天皇の耳に入ったことがきっかけとされています。

沿革

戦国時代：戸手の地名が文献に登場します。
江戸時代：塚越村、古川村、戸手村、小向村、下平間村、南河原村、上平間村、中丸子村などが成立しました。
1868年（明治元年）：神奈川府の管轄となり、後に神奈川県に改称されます。
1874年（明治7年）：大区小区制の施行により、南河原村などが第4大区第5小区に、小倉村などが第4大区第6小区に、上平間村などが第4大区第7小区に分けられます。
1889年（明治22年）：町村制の施行により、これらの村々が合併して御幸村が成立します。この時、南河原村の一部が川崎町に、中丸子村の一部が中原村となりました。
1912年（明治45年）：多摩川を挟んで東京府荏原郡との境が変更され、一部地域を編入しました。
1924年（大正13年）：南河原の一部に堀川町が起立。その後、川崎町、大師町と合併し、川崎市となります。
1964年（昭和39年）：区画整理により、南河原の一部が駅前本町となります。
1972年（昭和47年）：川崎市が政令指定都市となり、旧村域の一部が中原区、残りが幸区となります。また駅前本町は川崎区となりました。

行政

歴代村長

御幸村では、以下の村長が村政を担いました。

鳥養弥兵衛（1892年5月 - 1904年4月）：初代村長
榎木勇次郎（1904年5月 - 1913年5月）
斎藤丑之進（1913年5月 - 1914年7月）
大森多門（1914年7月 - 1918年2月）
小島晋渕（村長代理、アミガサ事件時）
原八郎兵衛（1918年11月 - 1919年2月）
鳥養仁一（1919年3月 - 1922年8月）
矢島七蔵（1922年9月 - 1924年7月）：最後の村長

地域

御幸村には、10の大字が存在しました。以下に主なものを挙げます。

南河原（みなみがわら）
戸手（とて）
矢場（やば）
古川（ふるかわ）
沙原（さはら）
塚越（つかこし）
下平間（しもひらま）
小向（こむかい）
古市場（ふるいちば）
上平間（かみひらま）
中丸子（なかまるこ）
下沼部（しもぬまべ）

経済・産業

第二次産業

御幸村では、いくつかの工場が操業していました。

横浜煉瓦製造所（御幸煉瓦工場）：1888年（明治21年）創業。神奈川県最大のレンガ工場でしたが、現存しません。
横浜精糖川崎工場：1907年（明治40年）創業。後に明治製糖川崎工場となりましたが、現在はソリッドスクエアになっています。
東京電気川崎工場：1908年（明治41年）創業。後に東京芝浦電気（現東芝）となり、現在はラゾーナ川崎になっています。
日東製鋼川崎工場：1915年（大正4年）創業。後に東京製綱川崎工場となりましたが、現在は河原町団地となっています。

本社

御幸村には、以下の企業の重要な拠点が置かれていました。

南武鉄道株式会社：1924年（大正13年）に本社を移転しました。現在の南武線の前身です。
東京電気株式会社：1913年（大正2年）に本社を工場所在地に移転しました。

第三次産業

御幸館：大正時代に開業した映画館で、後の御幸映画劇場です。現在は存在しません。

教育

旧制尋常小学校

御幸村立尋常高等御幸小学校：現在の川崎市立御幸小学校です。
御幸村立玉川尋常小学校：現在の川崎市立玉川小学校です。

旧制中学校

御幸村立実業補習学校：現在の川崎市立幸高等学校です。

医療・衛生

橘樹郡医師会に加盟する医師が村内にいました。
戸手浄水場：1921年（大正10年）完成。現在は幸区役所・幸文化センターになっています。

交通

鉄道路線

御幸村には鉄道駅はありませんでした。近隣の川崎駅や京浜東北線も村域外でした。南武鉄道が開通したのは、村が川崎市に合併した後でした。

道路

府中街道：現在の国道409号
大師道：同上
溝口道

渡し船

矢口渡船場
小向渡船場

名所・旧跡

小向梅林：現在の御幸公園
女躰神社：現存
御嶽神社：現存
神明神社：現存
八幡神社：現存
天神社：現存
延命寺：現存
円真寺：現存
妙光寺：現存
称名寺：現存
軽部五兵衛屋敷跡：大石内蔵助が滞在した場所

現在の町名

御幸村の旧域は、現在の川崎市幸区、中原区、川崎区の一部となっています。

川崎市幸区

旧塚越村：塚越、新塚越
旧古川村：古川町
旧戸手村：戸手本町、神明町、河原町など
旧小向村：小向、小向町、小向西町など
旧下平間村：下平間
旧南河原村（一部）：幸町、中幸町など
旧東京府荏原郡古市場村：古市場、東古市場（一部）

川崎市中原区

旧上平間村：上平間、北谷町、田尻町
旧中丸子村：中丸子
旧東京府荏原郡下沼部村：下沼部

川崎市川崎区

旧南河原村（一部）：駅前本町（一部)

参考文献

『橘樹郡史談』、岡野欣之助、木曽義比、1895年7月発行
『神奈川県橘樹郡案内記』、橘樹郡、1914年発行
『横浜社会辞彙』、日比野重郎、横浜通信社、1917年発行
『郡制有終記念帖』、橘樹郡、1923年3月発行
『川崎市史』、川崎市、1969年発行
『日本国有鉄道百年史』第1巻、日本国有鉄道、1969年発行
『神奈川県姓氏家系大辞典』、神奈川県姓氏家系大辞典編纂委員会、角川書店、1993年3月発行

関連項目

神奈川県の廃止市町[[村]]一覧

もう一度検索