御影 (神戸市)

御影：歴史と文化が織りなす神戸の高級住宅街

はじめに

兵庫県神戸市東灘区に位置する「御影」は、古くから続く地名であり、同時に近代的な高級住宅街としての顔も持つ地域です。本記事では、広域地名としての「御影地区」と、行政町名としての「御影」の二つの側面から、その歴史、地理、文化、そして著名な人物などについて詳細に解説します。

広域地名としての「御影地区」

地理

1950年（昭和25年）に神戸市に編入された旧御影町域は、現在では「御影地区」と呼ばれ、神戸市東灘区の広範囲を占めています。海岸寄りの地域は、かつて酒造地として栄えた「御影郷」であり、灘五郷の一つとして知られています。一方、山手側は隣接する住吉地区とともに、阪神間を代表する高級住宅街として発展しました。御影地区の中心部は、かつての御影村、そして近代の御影町役場があった地域で、現在の御影本町周辺にあたります。

歴史

前近代

「御影」という地名は、神功皇后が沢の井（阪神御影駅付近）にその姿（御影）を映したという伝承に由来するとも言われています。他にも、聖徳太子や本住吉神社にまつわる様々な説話が残されています。古くは『和名抄』に「覚美郷」として記載され、金属加工に携わる集団の存在が推測されています。また、12世紀初頭の和歌集にも「みかげの松」が登場するなど、古くから名勝地として知られていたことが伺えます。天正19年（1591年）の文書には「御影村」の名が現れ、その歴史の長さを物語っています。

近代

明治22年（1889年）の町村制施行により、御影村、郡家村、石屋村、東明村が合併して御影町が成立しました。明治29年（1896年）には菟原郡から武庫郡へ編入、その後も周辺地域を編入しながら発展を続けました。交通網の発達も御影町の発展に大きく寄与しました。明治7年（1874年）の鉄道開通、明治38年（1905年）と大正9年（1920年）の私鉄開通、そして大正末期から昭和初期にかけて整備された阪神国道により、大阪・神戸へのアクセスが向上しました。この交通の利便性向上によって、町域北部には高級住宅街が形成されていきました。昭和8年（1933年）には御影公会堂が建設され、地域の中心として機能しました。しかし、昭和9年（1934年）の室戸台風や昭和13年（1938年）の阪神大水害、昭和20年（1945年）の神戸大空襲による甚大な被害を受けました。戦後の復興を経て、昭和25年（1950年）4月1日、御影町は神戸市に編入され東灘区の一部となりました。

住居表示

神戸市編入後、旧御影町域では住居表示が実施され、「御影」を冠する町名へと変更されました。1968年（昭和43年）にはJR神戸線以南の地域、1976年（昭和51年）には阪急神戸線以北の地域で住居表示が実施され、2008年（平成20年）にはJRと阪急の線路間に挟まれた地域で最後の住居表示が実施されました。

御影石

六甲山地に産出する花崗岩「御影石」は、江戸時代後期にはすでにその名が知られていました。御影浜からの積み出しが名前の由来とも言われています。中世から西日本各地で使用され、特に安土桃山時代から江戸時代初期にかけては、多くの土木工事に用いられました。しかし、21世紀現在では御影地区での採掘は行われていません。六甲山が国立公園に指定されたため、現在は希少価値の高い高級石材となっています。

御影郷

灘五郷の一つ「御影郷」は、現在の御影本町、御影塚町、そして住吉地区の一部を含んだ地域です。古くから酒造業が盛んで、白鶴、菊正宗、剣菱などの有名蔵元があります。沢の井には、後醍醐天皇に酒を献上したという伝承も残されています。

高級住宅街

近代以降、御影地区の山手地区は高級住宅街として発展しました。多くの著名人が居住しており、その歴史と伝統を象徴するエリアとなっています。

『火垂るの墓』との関わり

野坂昭如の小説『火垂るの墓』は、御影を舞台とした作品の一つです。主人公の清太と節子が空襲を逃れ、石屋川沿いを逃げるシーンは、御影公会堂付近がモデルになったと言われています。アニメ映画化された際にも、綿密な取材が行われ、リアルな描写がなされていますが、作劇上の都合で一部変更されている部分もあります。

行政町名としての「御影」

地理

行政町名としての「御影」は、阪急御影駅南西側一帯、JR神戸線と阪急神戸本線に挟まれた地域です。東西には山手幹線、南北には神戸市道西御影線（平野線）が走り、地域の中心となっています。

歴史

この地域は、近世には御影村、石屋村、平野村の一部でした。御影町成立後もその一部として発展し、1950年（昭和25年）に神戸市東灘区の一部となりました。2008年（平成20年）の住居表示実施により、現在の「御影一丁目」から「御影三丁目」が設置されました。

交通

阪急電鉄神戸本線御影駅が地域の中心的な交通拠点であり、山手幹線と神戸市道西御影線が地域を東西南北に貫いています。

主要施設

御影駅（阪急）、御影駅（阪神）、神戸市立御影公会堂、神戸市立御影小学校、兵庫県立御影高等学校など、多くの公共施設や教育機関があります。

出身・ゆかりのある著名な人物

政治家、経済人、学者、マスコミ関係者、芸術家、スポーツ選手、芸能人など、多様な分野で活躍する多くの人々が御影にゆかりがあります。

結論

御影は、歴史と伝統、そして近代的な発展が調和した、魅力あふれる地域です。高級住宅街としてのイメージが強い一方、酒造業や御影石の産地としての歴史、そして『火垂るの墓』の舞台としての側面を持つなど、多様な顔を持つ地域です。この土地に息づく歴史と文化を深く理解することで、御影の魅力をより一層堪能することができるでしょう。

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