微吟

ちあきなおみ『微吟』

ちあきなおみのベストアルバム『微吟』（びぎん）は、2019年4月17日にテイチクエンタテインメントから発売された企画盤（規格品番：TECE-3529）です。長きにわたり活動休止中でありながら、今なお多くの音楽ファンに深く愛されるちあきなおみの歌声の魅力を凝縮した作品として注目を集めました。

本アルバムの最大の特徴は、収録曲が発売元のテイチクエンタテインメントだけでなく、過去にちあきなおみが在籍したビクターエンタテインメントや日本コロムビアといった複数のレコード会社がライセンスを保持する楽曲から厳選されている点にあります。これは、レーベルの壁を越え、アーティスト「ちあきなおみ」の歌唱の素晴らしさを最良の形で届けたいという強い意欲を示すものです。帯に記された「色褪せることのない歌、歌手、それが ちあきなおみ。」という言葉が、そのコンセプトを象徴しています。

選曲においては、一般的なベスト盤とは異なる、このアルバムならではの試みがなされています。特に代表曲の一部に、オリジナルのシングルやアルバムとは異なるバージョンが収録されている点です。例えば、「ねえあんた」には、日本コロムビア所持の宮川泰編曲ライブ・バージョンではなく、テイチクエンタテインメント所持の服部隆之編曲によるライブ・バージョンが収められています。また、「夜へ急ぐ人」も、日本コロムビア所持のシングル・バージョンやアルバム・バージョンではなく、テイチクエンタテインメント所持の内堀まさる編曲によるライブ・バージョンが選ばれています。これらのライブ・バージョンは、ちあきなおみの圧倒的な歌唱力とステージでの表現力を生々しく伝える貴重なテイクです。さらに、「矢切の渡し」も、作曲者・船村徹氏によるオリジナルアレンジではなく、氏の長男である蔦将包がアレンジしたバージョンを採用。こうした意欲的なバージョン選択が、作品全体の新鮮味を高めています。

アルバムのブックレットには、音楽評論家の三木容氏による2ページにわたる書き下ろしライナーノーツが掲載されており、収録曲やちあきなおみの歌唱について深く解説しています。

本アルバム『微吟』は、その優れた企画内容が高く評価され、発売年の年末にあたる2019年の第61回日本レコード大賞において「企画賞」を受賞しました。これは、長らく活動のないアーティストの作品でありながら、その音楽的価値を再認識させ、新たな光を当てる企画としての完成度が認められた結果と言えるでしょう。

収録曲には、ライブ音源も複数含まれており（特に9曲目から11曲目など）、スタジオ録音とは一味違う、会場の空気感や緊迫感、そして剥き出しの歌の力を感じ取ることができます。

『微吟』は、長年のファンにとってはもちろん、ちあきなおみの歌声に初めて触れるリスナーにとっても、彼女の芸術世界への素晴らしい入り口となる一枚です。時代を超えて輝く「色褪せることのない歌」の数々が、画期的な選曲とバージョン選択によって収められた、まさに「企画賞」にふさわしい傑作と言えるでしょう。

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