微胞子虫

微胞子虫（Microsporidia）

微胞子虫は、さまざまな動物の細胞内に寄生する単細胞真核生物のグループで、これまでに1500種以上が特定されています。これらの微胞子虫は、昆虫、甲殻類、魚類、さらには哺乳類を含む多様な宿主に感染し、重要な病原体として知られています。かつては異なる分類群に含まれていましたが、現在では独立した菌類の一群として扱われています。

形態

微胞子虫の胞子は、多くの場合、卵形をしており、1-40μmのサイズを持っています。胞子の外側には、タンパク質とキチン質からなる2層の細胞壁が存在し、その内側には特徴的なコイル状の極管（polar tube）があります。この極管は、ミクソゾア類の構造とは異なるものです。また、微胞子虫にはミトコンドリアが存在せず、相同なマイトソームがあると考えられています。さらに、菌類と共通して、運動器官である鞭毛を欠くことが特徴です。

生活環

微胞子虫の生活環は多様で、無性生殖だけでなく、複数の宿主を介した無性生殖と有性生殖の交替が見られる種もあります。感染開始時には胞子を形成し、その後、宿主間で伝播するための胞子が作られます。一般的には経口感染が主な感染経路ですが、昆虫宿主の場合、卵巣から卵に移る経卵巣感染が見られます。極管の射出は、高pHや特定の化合物の存在など、さまざまな条件によって引き起こされます。

胞子原形質は宿主の細胞内で成長し、細胞分裂を繰り返します。一部の微胞子虫は、感染した細胞が腫瘍状に肥大化するなどの変化を示し、これにより微胞子虫にとって十分な栄養が供給されるようになります。成長の最終段階で胞子を形成する際に、有性生殖が行われることもあります。

病原性

宿主に対する影響は多岐にわたりますが、一般的には寿命や生殖能力の低下、体重減少、体力の弱化などが挙げられます。微胞子虫はしばしば慢性的な病気を引き起こし、致死的症状を示すことは少なく、むしろ徐々に宿主を衰弱させる傾向があります。農業や漁業には、昆虫や魚類に寄生する病原体が多く、経済的にも大きな影響を与えています。

昆虫における感染例

例えば、カイコやセイヨウマルハナバチに寄生する微胞子虫（Nosema）は、農業における重要な病原体となっています。特に、カイコにおいては栄養不良を招き、衰弱死を引き起こすことがあります。

魚類における影響

魚類では、HeterosporisやGlugeaという種が知られています。特にH. anguillarumは養殖ウナギに影響を与え、その結果市場価値を下げる深刻な病原体です。

哺乳類への影響

1950年代まで、微胞子虫は人間に対して無害と考えられていました。しかし、1959年に初めて人体への感染が確認され、以降は免疫力が低下している場合に重篤な症状を引き起こすことがあります。人獣共通感染症として、家畜や犬、猫などを介して感染することがあります。

ゲノムと分類

微胞子虫は、真核生物の中でも最も小さなゲノムを持っています。その大きさは通常1000万から2000万塩基対であり、一部の種ではさらに小さくなることが知られています。最近の分子系統解析により、微胞子虫が接合菌に近縁な菌類であり、寄生生活に適応して進化してきたことが明らかになっています。現在、微胞子虫は独立した分類群として扱われ、今後の研究によって新たな知見がもたらされることが期待されています。

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