徳岡秀雄

徳岡秀雄（とくおか ひでお）氏は、1941年に京都府で生まれた日本の著名な教育学者であり、同時に浄土真宗の僧侶としても活動した異色の経歴を持つ人物です。その生涯を通じて、学術的な探究と仏教的な思想を独自の視点で融合させ、社会と人間に関する深い洞察を示しました。

学術的な軌跡

1964年に京都大学教育学部を卒業後、徳岡氏はまず京都家庭裁判所の調査官補として実社会での経験を積みました。この経験は、後に彼が専門とする少年司法や逸脱行動の研究において、理論だけでなく実践的な視点をもたらす基盤となったと考えられます。

その後、学術研究の道に進み、1971年に関西大学社会学部の講師に就任しました。関西大学では助教授、教授と昇任し、長きにわたり教鞭を執りながら、社会学の研究を深めました。特に、1994年から1996年にかけては同学部の学部長を務め、教育体制の発展に貢献しました。1999年には、母校である京都大学の教育学研究科教授に迎えられ、教育学の分野で後進の育成と研究に尽力しました。2002年の京都大学退職後も、放送大学の客員教授として教育活動を継続しました。

徳岡氏の主要な研究分野は、社会病理学、少年司法、そして教育現象の社会学です。彼は特に「予言の自己成就過程」や社会的な「ラベリング論」に関心を持ち、これらの理論が人間行動や社会問題に与える影響を深く分析しました。1987年には、「「予言の自己成就過程」研究 ラベリング論・再考」と題した論文で京都大学から教育学博士号を取得し、この研究は後に『社会病理の分析視角 ラベリング論・再考』として出版され、この分野における重要な成果となりました。

少年司法制度に関しても、彼は精力的に研究を行いました。アメリカにおける少年保護制度の歴史を社会学的にたどった『少年司法政策の社会学』や、日本における少年法の歴史的展開を論じた『少年法の社会史』は、この分野の研究者にとって必読の書となっています。これらの著作を通じて、彼は法制度が社会や個人に与える影響を、歴史的かつ構造的な視点から明らかにしました。また、社会学の基礎理論や教育と社会の関係、逸脱行動論といった幅広いテーマについても、多数の共編著を発表しています。

僧侶としての歩みと仏教思想との融合

徳岡氏のもう一つの重要な側面は、浄土真宗本願寺派の僧侶であることです。学者としての活動と並行して、中央仏教学院の通信教育課程で仏法を深く学び、得度修礼や教師教修といった必要な修行を経て、2003年からは布教使（助教）として、人々に浄土真宗の教えを伝える活動に従事しました。

彼の学術研究と仏教信仰は、互いに切り離せない関係にあります。社会病理や人間の苦悩といったテーマに対する社会学的な分析に、浄土真宗の教えに基づく人間観や世界観が融合することで、より包括的で深い洞察が生まれました。例えば、『宗教教誨と浄土真宗』では、宗教が更生や自己理解に果たす役割を論じ、『縁起する浄土』や『宿業を慶ぶ』といった著作では、縁起の思想や宿業といった仏教の根本概念を通じて、現代社会を生きる人間のあり方や苦悩に対する光を当てています。このように、彼は学術と信仰の両方のレンズを通して、人間存在の複雑さや社会問題の本質に迫りました。

教育者、研究者、そして僧侶として、徳岡秀雄氏は多角的な視点から社会と人間を探求し、その知見を多くの著作や教育活動を通じて後世に伝えました。彼の業績は、社会学、教育学、そして宗教思想といった複数の分野にまたがり、それぞれの分野に新たな視点を提供しています。

主な著書

『社会病理の分析視角 ラベリング論・再考』東京大学出版会、1987年
『少年司法政策の社会学 アメリカ少年保護変遷史』東京大学出版会、1993年
『社会病理を考える』世界思想社、1997年
『宗教教誨と浄土真宗 その歴史と現代への視座』本願寺出版社、2006年
『縁起する浄土』探究社、2008年
『少年法の社会史』福村出版、2009年
『宿業を慶ぶ 行為と業との分斉』探究社、2011年

主な共編著

『基礎社会学』岡田至雄共編著 福村出版、1986年
『基礎社会学』増補2版　岩見和彦、岡田至雄共編著 福村出版、1998年
『教育現象の社会学』竹内洋共編 世界思想社、1995年
* 『逸脱行動論』清永賢二共著 放送大学教育振興会、2002年

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