徳川武定

徳川武定：海軍と学問の両輪を駆使した生涯

徳川武定（1888-1957）は、日本の近代史において特筆すべき存在です。華族の子爵でありながら、海軍軍人、造船学者、そして東京帝国大学教授という、いくつもの顔を持つ人物でした。その生涯は、日本の海軍力、ひいては造船技術の進歩に大きく貢献しただけでなく、戦後の復興にも重要な役割を果たしたことを示しています。

名門の出自と海軍への道

武定は、最後の水戸藩主・徳川昭武の子として誕生しました。父は家督を甥に譲り隠居していたため、武定は比較的自由な環境で育ちました。1892年、父の功績により子爵位を授けられ、松戸徳川家を開設。その後、東京帝国大学工科大学造船学科を卒業し、1918年に海軍造船大技士として海軍に入ります。

平賀譲との出会い、そして八八艦隊計画

海軍での武定は、後に海軍技術中将・東京帝国大学総長となる平賀譲の下で研鑽を積みました。平賀譲の影響は大きく、武定の造船技術者としての道を決定付けたと言えるでしょう。八八艦隊計画では、4万7000トン、18インチ砲という当時としては巨大な戦艦の設計にも携わりました。この計画は、日本の海軍力強化に大きく貢献するものであり、武定の技術的才能がいかんなく発揮された証と言えるでしょう。

潜水艦開発における貢献と海軍技術研究所長

1924年から1944年まで、武定は20年もの間、海軍技術研究所に勤務しました。初期の研究所は築地市場の近くにあり、武定はしばしば市場に通い、魚を観察することで造船への新たなアイデアを得ていたという逸話も残されています。特に昭和初期における帝国海軍の優れた潜水艦の多くは、武定の研究成果によるところが大きいとされています。1942年には海軍技術中将に昇進し、海軍技術研究所長に就任。日本の海軍技術を牽引する立場として、日本の海洋戦略を支えました。

大学教授としての顔と戦後の活動

海軍士官としての職務のかたわら、武定は1938年から1944年まで東京帝国大学工学部教授を兼任していました。教育者としての顔も持ち合わせていた武定は、後進の育成にも尽力したことがうかがえます。戦後は公職追放令により一時職を失いますが、丸善の顧問として、また、意外にも永井荷風に関する研究論文を発表するなど、幅広い分野で活躍しました。追放解除後は、防衛庁技術研究所や川崎重工業の顧問として、日本の造船業の復興に貢献しました。

晩年と遺産

武定の邸宅である戸定邸には、工学関連の書籍やアフリカに関する趣味の書籍が数多くありました。これらは後に、藤原工業大学（現慶應義塾大学の一部）や天理大学に寄贈され、現在も研究に役立てられています。1951年には戸定邸を松戸市に寄贈し、晩年は登山を楽しむなど、穏やかな生活を送ったと伝えられています。

まとめ

徳川武定は、華族の身分にとらわれず、海軍軍人、造船学者、大学教授として多方面で活躍した稀有な存在でした。その功績は、日本の近代化、特に海軍力と造船技術の発展に多大なる影響を与えたことは間違いありません。彼の生涯は、知的好奇心と、日本の発展への貢献を両立させた、真の技術者の人生を示すものです。そして、その功績は、彼の残した文献や、寄贈された資料を通して、現在も語り継がれています。

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