徳川篤守

徳川篤守：華麗なる外交官の栄光と挫折の生涯

徳川篤守(1856-1924)は、激動の明治時代を生きた人物として知られています。水戸藩主・徳川慶篤の次男として生まれた彼は、幼少期から恵まれた環境で育ちました。水戸藩の藩校である弘道館で教育を受け、その後、叔父の昭武が水戸家を継いだことに伴い、当主不在であった清水徳川家を相続することとなります。この相続には、津山松平家の松平斉民・康民親子も候補に挙がっていたという興味深い経緯があります。

明治3年(1870年)には従五位に叙任され、家禄2500石を賜りました。さらに、次侍従に就任し、明治天皇に近侍する栄誉に浴します。その後、イギリス留学を認められましたが、実際にはアメリカに渡り、コロンビア大学法科で法律を学びました。同期の学生には、後に日本の政治を担うことになる鳩山和夫や江木高遠といった錚々たる面々が含まれていました。

帰国後、再び徳川姓に戻った篤守は、東京西早稲田に屋敷を構え、外務省御用掛として北京公使館に勤務します。その後、御用掛を辞職しますが、明治17年(1884年)には華族令により伯爵に叙せられ、貴族院設置を視野に入れた伯爵会では幹事を務めるなど、政治的な活動にも携わります。

しかし、篤守の生涯は順風満帆ではありませんでした。家政の経済的な行き詰まりから、訴訟事件に発展し、多額の負債を抱えることになります。徳川一族の支援により一度は負債を整理しますが、その後も経済的な苦境は続き、再び訴えられます。この経済的な困窮は新聞報道されるようになり、明治32年(1899年)には華族としての礼遇が停止され、同年、爵位を返上することになります。その後も裁判を続けますが、最終的には禁固刑が言い渡されました。

晩年は経済的な苦境と法的な争いに苦しんだ篤守ですが、アメリカ留学での経験や外交官としての活動は、彼の生涯における重要な部分を占めています。コロンビア大学で培った法律知識や、北京公使館での勤務経験は、彼の見識を深め、日本の近代化に貢献した側面もあると言えるでしょう。

彼の家族についても触れておきましょう。妻は小笠原忠幹の娘である登代子です。子供たちは、家督を継いだ好敏をはじめ、芳子、貞子、保子、守、川上明、鈴子、光、重子、山田雄と、多くの子供に恵まれました。娘たちは、それぞれ名家の家に嫁ぎ、また、息子たちもそれぞれの道を歩みました。森有礼の三男である森明と結婚した保子の子には、後に著名な哲学者となる森有正がいます。

徳川篤守の生涯は、華麗な外交官としての経歴と、経済的な破綻、そして爵位返上という挫折が複雑に絡み合った、波乱に満ちたものでした。彼の栄光と苦悩は、明治時代の激動を象徴する物語として、私たちに多くの示唆を与えてくれます。彼の経験は、近代日本の社会構造や、身分制度の変化、そして経済的な不安定さが個人の人生に及ぼす影響について考える上での貴重な資料となるでしょう。

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