徳川綱重

徳川綱重：家宣の父、そして甲府藩の知略家

徳川綱重（1644-1678）は、江戸時代前期を彩った重要な人物です。第3代将軍徳川家光の三男として生まれ、第4代将軍徳川家綱の弟、そして第5代将軍徳川綱吉の兄という、将軍家の中でも特筆すべき出自を持ちました。甲斐国甲府藩の藩主として、25万石の領地を治め、後の第6代将軍・徳川家宣の父としても知られています。

綱重の誕生は、家光が厄年にあたっていたことから、災厄を避けるため、姉である天樹院を養母とするという異例の形で迎えられました。1651年、家光が死去する直前に、綱重は15万石で甲府藩に封ぜられ、江戸の桜田屋敷を住まいとしました。領地は甲斐、武蔵、信濃、駿河、近江と、広く分散していました。

その後、参議に任ぜられると、「甲府宰相」という異名で呼ばれるようになります。この異名は、彼の高い政治的影響力と、その知略を示唆しています。1654年には別邸として甲府浜屋敷（後の浜離宮）を建築するなど、その権勢は盤石なものになっていきました。1661年には10万石の加増を受け、25万石を領する大名となりました。

1662年には長男・虎松（後の家宣）が誕生します。綱重は家宣を溺愛したと伝えられており、家宣の教育にも力を注いだと言われています。しかし、1678年、兄・家綱に先んじて35歳の若さで亡くなりました。綱重の死は、幕府内部に大きな衝撃を与えたことでしょう。

綱重の死後、弟の綱吉が将軍となりますが、子がなかったため、綱重の長男である家宣が綱吉の養子となり、第6代将軍の座につきました。綱重の血筋が、こうして幕府の存続に大きな役割を果たしたのです。

綱重は学問にも深い理解を示し、甲府に湯島聖堂に匹敵する聖堂の建設を計画するなど、文化面でも貢献しました。彼自身は甲斐国を訪れた記録はありませんが、在国の家臣団が中心となって、釜無川の治水事業である徳島堰の開削などが行われました。

『武家勧懲記』では、「綱重卿ハ自然ト権威備リ、剛勇有テ物毎好悪ノ意地ナク、行跡悠然トシテ、聡明叡智ノ御器量タリ」と評されており、その人物像の一端が垣間見えます。自然体で権威を持ち、剛勇でありながら偏見がなく、落ち着いた行動と優れた知略を備えた人物であったことがうかがえます。

綱重の墓所は東京都港区の増上寺です。その生涯は、華麗さと悲劇、そして、幕府の未来を担う役割を兼ね備えた、まさにドラマチックなものでした。彼の存在は、江戸幕府中期の政治と文化に大きな影響を与え、その功績は現在も語り継がれています。後の世に大きな影響を与えた人物として、徳川綱重は歴史に名を残すのです。彼の功績は、単なる大名としての枠を超え、将軍家の血筋と、日本の歴史そのものと深く関わっていると言えるでしょう。

また、1710年には、死後に征夷大将軍の称号が贈られました。これは極めて異例なことであり、彼の政治的影響力と、幕府への貢献がいかに大きかったかを示すものです。綱重の生涯は、多くの歴史資料や史料、そして創作作品にも描かれ、今もなお人々の関心を集め続けています。

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