徳島堰

徳島堰について

徳島堰は、山梨県韮崎市と南アルプス市を繋ぐ、全長17kmに及ぶ農業用水路です。この堰は、江戸時代に深川の商人であった徳島兵左衛門俊正によって開削されました。2022年には、その歴史的価値が認められ、国の登録記念物として登録されています。

歴史

徳島堰の歴史は、徳島兵左衛門俊正が身延山参詣の際に釜無川右岸一帯の荒廃した土地を目にしたことに始まります。水不足が原因で耕作が困難な状況を改善するため、彼は堰の開削を計画しました。1664年に甲府藩主・徳川綱重の許可を得て、翌年、現在の韮崎市円野町で工事が開始されました。

当時、徳島俊正は藩から芝地の開墾を請け負い、初年度のみ水代を徴収し、2年目以降は年貢の1割が下付されるという契約を結んでいました。釜無川と小武川の合流点下流に石を積み、粗朶と筵で水を堰き止め、ここを取水口としました。流路は等高線に沿って設けられ、堰の大きさは上部が約5.4m、底部が約2.7mでした。天井川の部分は埋樋による暗渠としています。傾斜地を通るため、右岸を削った土砂を左岸に盛り土し、石積みなどで護岸を行いました。また、途中にあった円井型石英閃緑岩の岩盤層が工事の障害となりました。

特に難工事となったのは、御勅使川と交差する暗渠部分でした。ここでは、一辺が約1.8mの板320枚を牛枠で支える板枠を使用し、施工を行いました。1667年の春には、現在の南アルプス市曲輪田新田まで、約17kmの通水に成功しました。しかし、その年の夏と秋に台風の被害を受け、堰は二度にわたり大破しました。

徳島俊正は修復のために多くの資材を用意していましたが、それまでの工事費4,165両を補償する条件で、堰を甲府藩に譲渡し、江戸へ帰りました。開通に伴う永代年貢1割の付与を藩が嫌ったため、退去させられたと考えられています。その後、同年中に甲府城代・戸田周防守が、有野村の里長・矢崎又右衛門に復旧を命じました。矢崎又右衛門は、大破した堰の取水口に遮断堤防を建設し、重要な区画の改修や両岸の石垣化を行い、ほぼ戦前の状態にまで復旧させたとされています。1670年には堰が完成し、翌年に工事費や水代、年貢などを精算し、堰は藩の管理下に移されました。

しかし、戸田周防守は約束していた工事費用を矢崎秀長に支払わず、借金を含む私財を投入した矢崎秀長は苦境に陥りました。当初は武川西郡新田堰と呼ばれていましたが、戸田周防守が徳島俊正の功績を称え、徳島堰と名付けられました。

1965年、釜無川右岸土地改良事業が行われた際、旧取入口の下流に近代的な頭首工が設けられ、東京電力釜無川第三発電所の放水および釜無川の水を取り入れるようになりました。さらに、堰はコンクリートで固められ、有野に畑地灌漑調整池が設けられ、1973年に工事が完了しました。これにより、川の導水管を通じて遠隔操作で末端のスプリンクラーに水が送られるシステムが構築され、灌漑面積が1700ヘクタール以上に及ぶ果樹園地帯が開発されました。

堰によって開発された新田

徳島堰の開通後、以下の新田と集落が作られました。

白根町（現・南アルプス市）
飯野新田
曲輪田新田
在家塚田圃
八田村（現・南アルプス市）
六科新田
野牛島

徳島堰の現代的な価値

徳島堰は、単に農業用水路としての役割だけでなく、歴史的な土木技術の遺産としての価値も高く評価されています。2022年の登録記念物登録は、その文化的意義を広く認知させることになりました。

参考文献

日本歴史地名大系（オンライン版） 小学館
平山優「徳島堰の開削」『山梨県史』通史編3近世1、第七章第二節二

関連情報

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釜無川右岸土地改良区連合
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『徳島堰』 - コトバンク

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