徴姉妹

徴姉妹：後漢支配への抵抗とベトナムの英雄

徴姉妹（ちょうしまい、ベトナム語：Hai Bà Trưng）は、1世紀に後漢の支配下にあった交趾（現在のベトナム北部）で発生した反乱（ハイ・バ・チュンの反乱）の首謀者として知られています。姉の徴側（チュン・チャク）と妹の徴弐（チュン・ニ）は、共に生年は不明ですが、43年に処刑されました。

生涯

前半生

徴側は、交趾郡の有力な豪族である貉将（地域軍事指導者）の娘として生まれました。彼女は朱䳒県の有力者である詩索の妻となりました。一方、徴弐の出生地は明確ではありませんが、姉と同様の環境で育ったと考えられています。当時、交趾郡は前漢の支配下に入り、それまで地域を統治していた貉将や貉侯が有していた税の徴収権は、漢側へと移管されていました。徴側は、このような状況に不満を持ち、徴税権を地域勢力に戻すよう漢に要求しました。この動きは、当時の交趾太守であった蘇定の悪政も相まって、地域住民の支持を得ました。

徴姉妹の乱

40年3月、徴側は妹の徴弐と共に、交趾の65県の貉将や貉侯の支持を得て反乱を起こし、自らを「徴王」と称しました。彼女たちは麊泠に拠点を置き、徴税を強行する姿勢を示しました。この反乱に対し、後漢の光武帝は馬援を伏波将軍に任命し、反乱鎮圧を命じました。42年4月、馬援は劉隆を副将とし、2万の兵を率いて交趾に到着しました。当初、漢軍は悪天候や疫病によって苦戦を強いられましたが、徴氏側にも厭戦気分が広がり、決戦を急がざるを得なくなりました。浪泊での決戦で、徴姉妹は寄せ集めの軍勢で漢軍に挑みましたが大敗を喫し、数千人が戦死、1万人以上が捕虜となりました。

敗北後、徴姉妹は麊泠から禁谿へと逃れましたが、漢軍の追撃は厳しく、最終的に捕らえられ処刑されました。43年1月、彼女たちの首は都の洛陽に送られました。その後も馬援は残党を追って九真郡にまで進軍し、反乱の根絶を図りました。しかし、中華王朝の支配に対する抵抗は断続的に続き、248年には趙氏貞の反乱が起きています。

伝承・影響

徴側の最期については、川に身を投げた、馬援に首を刎ねられた、雲の中に消えたなど諸説あります。また、徴姉妹が反乱を起こした理由として、夫の詩索が交趾太守の蘇定に処刑されたという説がありますが、これは後世の伝承であり、実際には詩索が処刑されたという記録はありません。徴姉妹の反乱は3年という短い期間でしたが、彼女たちはベトナムの民族的英雄として語り継がれ、各地に彼女らを祀る寺院が建てられています。また、ベトナムの多くの都市には、「ハイ・バ・チュン通り」や「チュン・ヴオン通り」といった、彼女たちの名前を冠した通りが存在します。

まとめ

徴姉妹は、後漢の支配に対して果敢に立ち向かった女性指導者として、ベトナムの歴史において重要な役割を果たしました。彼女たちの反乱は短期間で鎮圧されたものの、その勇気と抵抗の精神は、現代のベトナムにおいても深く尊敬され、称えられています。

参考資料

小倉貞男『物語 ヴェトナムの歴史 一億人国家のダイナミズム』中央公論社、1997年
桐山昇、栗原浩英、根本敬編『東南アジアの歴史―人・物・文化の交流史』有斐閣、2003年
『後漢書』巻24列伝14馬援伝

関連項目

ハイバーチュン区 - ハノイを構成する区の一つ
* 北属期

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