心遠館

心遠館：ジョー・D・プライス氏の日本美術コレクション

心遠館（しんえんかん、英: Shin'enKan）は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ニューポートビーチに位置する、日本画収集家ジョー・D・プライスの財団名、および彼の邸宅の通称として知られています。この名称は、江戸時代の著名な画家、伊藤若冲の画号に由来しています。

コレクションの概要

プライスコレクションは、伊藤若冲や長沢芦雪といった名だたる絵師の作品をはじめ、琳派の華麗な作品群、そして肉筆浮世絵など、多岐にわたる約600点の日本画で構成されています。コレクションのうち、1980年以前に収集された約190点はロサンゼルス・カウンティ美術館日本館に寄託され、残りの約400点は心遠館に収蔵されていました。しかし、2019年にはこれらのうち約190点が出光美術館に売却されています。

旧心遠館の歴史

ジョー・D・プライスはオクラホマ州で生まれ、父親の会社でパイプライン事業に従事していました。1953年、ニューヨークの画廊で偶然出会った伊藤若冲の作品に感銘を受け、日本美術の蒐集を始めました。コレクションの拡大に伴い、フランク・ロイド・ライトの弟子であり、プライスと大学の同窓生でもあったブルース・ゴフの設計により、1981年にオクラホマの自宅に財団「心遠館」を設立しました。しかし、この旧宅は1996年の放火により焼失してしまいました。

新心遠館の設立

1988年、プライスは自己資金と日本企業の寄付により、ロサンゼルス・カウンティ美術館内に日本館を設立し、プライス・コレクションから約200点を寄託しました。その後、日本館完成の数年後に、新たな自宅（新心遠館）を建設し、残りのコレクションを収蔵しました。新心遠館の設計は、ブルース・ゴフの死後、弟子のバート・プリンスに引き継がれて完成しました。特徴的な有機的デザインの新心遠館には、電動ブラインドの開閉によって自然光での作品鑑賞が可能な鑑賞室や、本格的な茶室などが備えられています。新心遠館の設計図は米国の国立図書館に保管されており、プライス自身も自叙伝の中で「現代アメリカ建築の代表作の一つ」と評しています。

主な所蔵品

心遠館のコレクションには、以下のような著名な作品が含まれています。

伊藤若冲
「葡萄図」（紙本墨画）
「松に鷹図」（絹本墨画）
「旭日雄鶏図」（絹本着色）
「猛虎図」（絹本着色）
「鳥獣花木図屏風」（紙本着色、6曲1双）
長沢芦雪
「猛虎図」（絹本着色）
「牡丹孔雀図屏風」（紙本着色、2曲1双）
「軍鶏図」（紙本墨画淡彩）
「幽霊図」（絹本墨画淡彩）
琳派
「三味線を弾く芸者図」（中村芳中、紙本墨画淡彩）
「十二か月花鳥図」（酒井抱一、絹本着色、12幅）
「三十六歌仙図屏風」（酒井抱一、紙本金地着色、2曲1双）
「佐野渡図屏風」（酒井抱一、紙本金地着色、2曲1双）
「飴売り図」（鈴木其一、紙本墨画）
「月下波上千鳥図」（鈴木其一、絹本墨画淡彩）
肉筆浮世絵
「雪中美人図」（礒田湖龍斎、絹本着色）
「二美人図」（勝川春章、絹本着色）
「鍾馗図」（勝川春英、絹本着色）
「五美人図（見立琴棋書画図）」（勝川春鱗、絹本着色）
「二美人図」（伝喜多川菊麿、紙本着色）
「文読む美人図」（歌川国貞、絹本着色）
「風俗図扇面画帖」（英一珪・歌川国貞、12面、紙本着色）
「妓楼酒宴図」（河鍋暁斎、絹本着色）
「閻魔と地獄太夫図」（河鍋暁斎、絹本着色）
「百福図」（雅熙、絹本着色、江戸時代から明治時代）
「お多福鬼図」（柴田是真、絹本着色）

これらの作品群は、日本の近世絵画の多様性と豊かな表現力を物語っています。心遠館は、日本美術を愛する人々にとって、重要な存在と言えるでしょう。

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