思想の科学

戦後日本の思想を彩った雑誌『思想の科学』：その歴史と影響

1946年創刊、1996年休刊の『思想の科学』は、戦後日本の思想誌として重要な位置を占める月刊誌でした。鶴見俊輔、丸山眞男ら錚々たるメンバーによって創刊された同誌は、時代の変遷とともに出版社を転々とし、幾多の困難を乗り越えながら、50年以上にわたって日本の思想文化に貢献しました。本稿では、『思想の科学』の歴史、その活動内容、そして社会運動との関わりについて詳細に探ります。

創刊と初期の活動：戦後日本の思想的課題

太平洋戦争終結直後の混沌とした社会状況の中で、『思想の科学』は、敗戦の経験を深く反省し、未来への指針を見出すことを目指して創刊されました。創刊メンバーには、鶴見俊輔、丸山眞男、都留重人といった、戦後日本の思想を代表する人物が含まれており、その活動は、戦争責任の追及、民主主義社会の構築、そして新たな思想の模索という、戦後日本が直面した喫緊の課題に正面から取り組むものでした。鶴見俊輔の言葉にあるように、戦争への反対を共通項とした孤独な知識人たちが集まり、互いに支えあいながら活動を展開していったことが、同誌の原点となっています。

天皇制特集号の廃棄事件と自主刊行への道

1961年、中央公論社が発行元だった時期に発生した天皇制特集号の廃棄事件は、『思想の科学』の歴史において大きな転換点となりました。右翼の圧力や、嶋中事件の影響を受けた中央公論社の判断により、特集号が無断で廃棄されたのです。この事件は、言論の自由に対する重大な挑戦として捉えられ、研究会メンバーは強い憤りを感じました。しかし、鶴見俊輔を中心とした穏健な姿勢により、中央公論社との決裂は最小限にとどめられました。その後、思想の科学研究会は自主刊行を決意し、有限会社思想の科学社を設立。廃棄された特集号を元に、解説などを加えた号を発行するなど、揺るぎない意志を示しました。

多様な投稿の募集と社会運動との関わり

『思想の科学』は、専門家だけでなく、一般の人々の意見や考えも積極的に取り入れることを目指していました。そのため、投稿を広く募集し、一般市民による論文や体験談なども掲載しました。生活綴方運動の推進なども行い、多様な視点を取り入れることで、より幅広い読者層を獲得し、社会との接点を維持しました。

安保闘争やベトナム反戦運動といった、戦後日本の重要な社会運動においても、『思想の科学』は重要な役割を果たしました。研究会メンバーの中には、これらの運動に参加する者も多く、同誌を通して運動の状況や意見が発信されました。「声なき声の会」から「ベ平連」への発展過程においても、『思想の科学』は深く関与していました。

『思想の科学』の多様な活動とその後

「ひとびとの哲学」という連載企画では、一般の人々の思想や生き方を深く掘り下げ、哲学的な問いを投げかけました。また、「転向」に関する共同研究では、戦前の知識人たちの思想の変化を多角的に分析し、歴史的な考察を行いました。これらの活動は、単に思想的な議論にとどまらず、社会問題への深い洞察に基づいたものでした。

1996年、536号をもって休刊を迎えた『思想の科学』は、戦後日本の思想文化に大きな足跡を残しました。その活動は、時代を超えて、自由な言論と民主主義の重要性を私たちに訴えかけています。同誌が積み重ねてきた歴史と活動は、現代社会を考える上で貴重な資料であり続けるでしょう。

主要な編集長、社長、関連番組

長年にわたり『思想の科学』を支えた編集長や社長、そして関連番組の情報も合わせて記載することで、より詳細な情報を提供します。編集長には竹内好、久野収、市井三郎らが名を連ね、社長には久野収、加太こうじらが就任しました。2014年には、NHKのETV特集で『思想の科学』を取り上げた番組が放送され、鶴見俊輔や関係者へのインタビューが公開されました。これらの情報は、『思想の科学』の歴史をより深く理解する上で役立ちます。

もう一度検索