急性疾患

急性疾患とは

急性疾患は、医学の分野において、病状が急激に発症し、比較的短期間で経過することを特徴とする一群の病気や病態を指す言葉です。これに対し、長期間にわたって病状が続くものを慢性疾患と呼び、両者は対義語として位置づけられています。

この概念は、単に症状の程度が重いか軽いかを示す「重症」とは異なります。たとえ重症であっても、短期間で回復あるいは終結すれば急性疾患と分類されることがありますし、逆に軽度な症状でも長期にわたれば慢性疾患となります。

多くの具体的な病名に「急性」という言葉が冠されており、その病気の発症様式や経過の特性を示しています。代表的な例としては、急性骨髄性白血病、急性心不全、急性腎不全、急性肺炎、急性心筋梗塞、急性肝炎、急性アルコール中毒などが挙げられます。

日本の医療制度における急性期

急性疾患という概念は、日本の医療提供体制を理解する上でも非常に重要です。特に、医療法に基づき各医療機関に報告が義務付けられている「病床機能報告制度」において、病棟の機能区分の一つとして「急性期」が明確に定義されています。

この制度では、病棟の医療機能を以下の4つの区分に分けて報告します。

高度急性期：最も診療密度が高く、重症の急性期患者さんに対し、集中的な治療によって早期の状態安定化を目指す機能です。救命救急や高度な手術後の管理などがこれにあたります。
急性期：高度急性期ほどではないものの、急性の症状を呈する患者さんに対し、病状の早期安定化に向けた一般的な入院医療を提供する機能です。多くの一般的な急性疾患に対する入院治療が行われます。
回復期：急性期治療を終え、病状が安定してきた患者さんに対し、在宅復帰や社会復帰を目指したリハビリテーションや医療ケアを提供する機能です。
慢性期：長期にわたり療養が必要な患者さんに対し、継続的な医療や介護を提供する機能です。難病や高齢による療養などに対応します。

「急性期病棟」は、主に「急性期」に分類される病棟を指し、急性疾患や急性増悪した慢性疾患の患者さんを受け入れ、集中的な治療によって病状を安定させる役割を担っています。

国際比較と課題

日本の医療制度における「急性期」には、国際的な視点から課題も指摘されています。経済協力開発機構（OECD）の統計によると、日本の急性期病棟における平均入院日数は、OECD加盟国の平均と比較して著しく長いことが示されています。具体的には、OECD平均の約2倍にも及ぶ状況が報告されています。

この長い入院期間は、病床の回転率を低下させ、限られた医療資源の効率的な活用を妨げる要因の一つとなり得ます。また、早期の回復期リハビリテーションや在宅医療への移行を遅らせる可能性も指摘されています。

OECDは2009年の勧告において、日本の医療機関に対し、病床機能の分類をより正確に行うことの重要性を指摘しました。これは、急性期本来の機能である「状態の早期安定化」が集中的かつ効率的に行われるべきであるという考えに基づいています。

まとめ

急性疾患という用語は、単に病気の経過を示すだけでなく、日本の医療提供体制、特に病床機能のあり方を考える上でも不可欠な概念です。急性期医療がその役割を十分に果たし、回復期や慢性期、そして在宅医療へとスムーズに連携していくことが、質の高い効率的な医療サービスを提供するために求められています。病床機能の適切な分化と患者さんの状態に応じた柔軟な転院・転棟は、今後の日本の医療にとって重要な課題と言えるでしょう。

関連項目

* 慢性疾患

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