急速濾過

急速濾過（きゅうそくろか）

急速濾過は、主に都市部で供給される水道水の製造過程において、多段階にわたる水質浄化プロセスの中で重要な位置を占める濾過手法の一つです。大量の水を効率的に処理する必要がある大規模な浄水施設で広く採用されています。

この濾過方式の歴史は19世紀末に遡り、1896年にアメリカ合衆国で初めて実用化されました。それまで主流であった緩速濾過と比較して、処理に必要な敷地面積が格段に少ないという利点があったため、特に人口が密集し、土地の制約がある大都市において急速に普及が進み、1920年代には主要な都市型浄水場の標準的な技術となりました。

処理の仕組み

急速濾過システムでは、比較的に粒径の粗い砂や砂利などを濾過材として使用します。濾過を行う前に、原水には硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウムといった凝集剤が添加されます。これにより、水中に浮遊する微細な粒子が互いに結合し、より大きな塊である「フロック」を形成します。

凝集、そしてフロック形成の後、多くの場合、フロックを重力によって沈殿させる沈殿池での処理を経てから、濾過槽へと導かれます。濾過槽では、水とフロックが濾過材の層を通過する際に、フロックが砂粒の間に捕捉されることで水から分離されます。このプロセスは、重力のみを利用する場合と、ポンプによる圧力を加えて行う場合があります。濾過処理によって、濁りの原因となる浮遊物質などが効果的に取り除かれます。濾過を終えた水は、通常、塩素やオゾンによる最終的な消毒処理を経て、安全な飲料水として供給されます。

運用と管理

急速濾過装置は、その能力を維持するために頻繁な洗浄が不可欠です。通常、1日に数回の洗浄作業が行われます。この洗浄は「逆洗」と呼ばれ、濾過方向とは逆向きに水を濾過槽の下部から流し込むことで、濾過材の間に捕捉されたフロックや汚れを洗い流します。逆洗時には、濾過材の層が一時的に液状化する「流動化」という状態になりますが、この際に貴重な濾過材が槽外へ流出しないよう、細心の注意を払った管理が必要です。

特徴

急速濾過は、主に大規模な自治体の水処理システムに適した技術です。そのシステムは複雑かつ高価であるため、比較的小規模な自治体や開発途上国においては、導入や維持が難しい側面があります。

利点

濾過速度が非常に速い点が挙げられます。緩速濾過と比較するとその差は顕著で、一般的に1平方メートルあたり1日あたり約15万リットルから20万リットルもの水を処理する能力を持ちます。
同じ処理能力を持つ緩速濾過設備と比べて、必要な設置面積が格段に小さく済みます。
原水の濁度などの水質変動に対して比較的安定した処理性能を発揮します。
濾過材として使用する砂の量が、緩速濾過に比べて少なくて済みます。

欠点

緩速濾過に比べて、日々の運用や維持管理に手間がかかり、高度な技術や専門知識を持つ人員による監督が不可欠です。
水の味や香りに関する問題（例えば、カビ臭など）に対しては、単独では十分な除去効果が期待できないことが多いです。
濾過の過程で発生するフロックや捕捉された汚れは、大量のヘドロとして排出されるため、その廃棄物処理が課題となります。
凝集剤をはじめとする化学薬品の購入に継続的なコストが発生します。
安定した処理を行うためには、原水に対する化学薬品の注入が本質的に必要となります。
運用管理に関わるコスト全体が高い傾向にあります。
* 緩速濾過のように、濾過材表面に形成される生物膜による微生物学的浄化作用がないため、細菌そのものを除去する能力は限定的です。

総じて、急速濾過は効率的かつ省スペースで大量の水処理を実現する一方で、高度な管理体制と継続的なコストが必要とされる技術と言えます。

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