性別の割り当て

新生児の性別割り当て：複雑な現実と社会問題

生まれたばかりの赤ちゃんの性別は、どのように決められるのでしょうか？多くの場合、新生児の性別は、出生時に医師や助産師が外性器を観察し、性別の二元論（男性と女性のみ）に基づいて決定されます。この行為は「性別の割り当て」と呼ばれ、出生証明書などに記録されます。一見、単純な作業のようですが、その背景には複雑な問題が潜んでいます。

性別の割り当て：単純な作業ではない

通常、外性器をはじめとする身体的特徴（表現型）は、性染色体（XXまたはXY）と一致しており、性別の割り当ては容易に行われます。しかし、外性器が非典型的な特徴を持つ場合や、出生時は典型的な特徴があっても後に性分化が非典型的になるケースもあります。このような場合、生殖腺や染色体など、様々な身体的・遺伝的特徴を総合的に考慮して、養育上の性別が決定されます。

日本の場合、出生届には医師や助産師が判断した「男」または「女」のいずれかの性別が記載されます。この性別は、将来、戸籍や社会生活において重要な役割を果たすことになります。

性分化疾患（DSDs）と性の多様性

性分化は、性染色体（XとY）だけでなく、多くの遺伝子やその発現にも影響を受けます。そのため、身体的な性の特徴は多様性に富んでおり、「典型的」な男性または女性の特徴に完全に当てはまらない人もいます。このような状態は、性分化疾患（DSDs）、性分化異常、インターセックスなどと呼ばれ、約60種類以上の状態が含まれます。

DSDsは、狭義では人口の0.018%、広義では1.7%程度に存在すると推定されています。外性器の形状が典型的でない新生児は0.02～0.05%いると報告されています。DSDsを持つ全ての人が性別の割り当てに問題を抱えるわけではありませんが、性別決定が困難なケースも存在し、医学的な判断が求められます。

重要なのは、DSDsを持つことと、性同一性障害（トランスジェンダー）であることには直接的な関係がないということです。出生時に「典型的」な身体的特徴を持つ人でも、思春期以降に非典型的な染色体を有していることが判明するケースもあります。

近年では、人間の性は男性と女性の二元論で完全に説明できるものではなく、スペクトル上にあるという考え方が注目されています。この視点から見ると、出生時の性別の割り当ては、より複雑で多様な現実を反映したものとなります。

性別の判断が困難な場合と社会制度

性別の判断が困難な場合、どのように対応するのでしょうか？日本では、性分化疾患初期対応の手引きに基づき、性別決定が困難な場合は出生届の名前と性別欄を保留し、後日決定された性別を追記するという対応がとられます。

一方、ドイツでは2018年から「divers」という第三の性別の登録が認められています。ニュージーランドやオーストリアなどでも、出生届で未確定や第三の性を選択できる制度が導入されています。これらの取り組みは、出生時の性別の割り当てが将来の性同一性と一致しないリスクを軽減することを目的としています。

しかし、公的書類における男女二分法については、依然として課題が残ります。医療社会学者の家永登氏は、「男女の性別は事案ごとに相対的に決定すれば足りるものであり、全生活関係について全面的かつ一律にその人を『男』か『女』かに区別することが必要な場面は、実はそれほど多くない」と指摘しています。

医療的介入の問題点

歴史的には、性特徴が非典型的な新生児に対し、割り当てられた性別の典型的な特徴に沿わせるための医療的介入（性別適合手術など）が行われてきました。しかし、これらの介入は、緊急性や医療的必要性のない場合に行われることが多く、重大な人権侵害として批判されています。新生児は手術やホルモン療法に同意できないため、これらの介入は倫理的な問題を含んでいます。

2011年、ドイツでは合意のない性別適合手術を受けた女性が勝訴した裁判があり、2015年には欧州評議会が合意のない性別適合手術を人権侵害と宣言しました。マルタは2015年、合意のない性的特徴の変更を違法とする法律を制定しました。

性同一性との関連

出生時の性別の割り当ては、将来の性同一性（ジェンダーアイデンティティ）と一致するとは限りません。約1%の人は、出生時に割り当てられた性別と性同一性が一致しないトランスジェンダーです。DSDsを持つ人の中にもトランスジェンダーの人は存在します。DSDsとトランスジェンダーは異なる概念であり、両者の関係性は複雑です。

多くの国で、トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更するための法整備が進められていますが、制度的な障害や差別は依然として存在します。

性別に関する議論は、医学、倫理、社会制度、個人体験など、多様な側面を包括的に理解する必要があります。出生時の性別の割り当ては、その複雑な現実の一端を示すものです。

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