恵利原の水穴

恵利原の水穴（天の岩戸）：信仰と自然が織りなす神秘の空間

三重県志摩市磯部町恵利原に位置する恵利原の水穴は、別名「天の岩戸」として知られる湧水です。1985年には環境省の名水百選に選定され、その水質の素晴らしさと、周辺の豊かな自然環境が評価されています。石灰洞としても知られ、大沢の水穴という呼び名も持つこの地は、古くから人々の信仰を集めてきた歴史的な場所でもあります。

地形と地質：石灰岩の織りなすカルスト地形

恵利原の水穴は、朝熊山地に位置し、周辺は広大な石灰岩からなるカルスト地形が広がっています。石灰岩の露頭も見られ、地質学的にも貴重な場所と言えるでしょう。山麓には伊勢神宮別宮伊雑宮の社叢の原生林が広がり、その豊かな植生が、降雨量の変化に影響されることなく、常に石灰岩層への浸透を促していると考えられています。

恵利原地区にはこの水穴を含め、大小5つの洞窟が存在し、三重県内でも有数の規模を誇る石灰洞穴群を形成しています。地質学的な調査では、この地域には厚さ1700メートルを超える河内層群（秩父累帯）が露出していることが分かっています。この層群は断層によって北西側のAブロックと南東側のBブロックに分けられ、水穴のある逢坂峠付近はBブロックに属します。Bブロックの河内層群を構成するチャート、輝緑凝灰岩、石灰岩はほぼ水平または緩い向斜構造を成しており、これらの石灰岩からは、Pseudofusulina toyamensisなどの紡錘虫化石が発見されています。これらの化石から、この層群は前期ペルム紀（Cisuralian）のものであると考えられています。

天の岩戸：信仰と伝承の歴史

古くから伊勢と志摩を結ぶ街道の中間地点にあった恵利原の水穴は、昭和初期（少なくとも昭和10年以前）から「天の岩戸」や「ちしょうさん」と呼ばれ、地域の人々から信仰を集めてきました。毎年11月23日前後には、岩戸の奥に太陽が差し込む時期に合わせて神官による祭事が行われています。昭和10年頃には崖崩れで埋没寸前となりましたが、その後、土砂を除去し復興されました。この際に大量の水が流れ出したことから、罔象女神（ミツハノメ）を祀り、内部に滝があったことから瀧祭窟の祭壇が設けられています。

真珠王として知られる御木本幸吉もこの地の信仰者の一人であり、植樹を行ったという記録が残っています。近年では、水穴の近くを通る県道を伊勢方面へ進むと、猿田彦神社があり、その中に鎮座する佐瑠女神社に、新海誠監督が寄贈した幟が立てられていることが話題となっています。このことと、新海監督作品『君の名は。』のヒロインが罔象女神をモデルとしているという説、『すずめの戸締まり』のヒロインの姓が「岩戸」であること、そして監督が信仰する佐瑠女神社の神であるアメノウズメが志摩に帰ったという一説などから、これらの作品の元ネタが恵利原の水穴ではないかという考えが広まり、若い世代の参拝者も増加しつつあります。

利水とアクセス

恵利原の水穴の湧水は、大部分が神路ダムに流れ込み、上水道水源として利用されていますが、日量31,000トンという供給量でも需要を満たすには不足しているのが現状です。

アクセスは、近鉄志摩線志摩磯部駅または近鉄山田線伊勢市駅から三交バスを利用し、「天の岩戸口」バス停下車後、徒歩15分です。車の場合は、三重県道32号伊勢磯部線ダム湖終点から徒歩15分です。

恵利原の水穴は、豊かな自然と歴史、そして現代のアニメーション作品との不思議な繋がりを持つ、神秘的な場所です。訪れる際には、その歴史と自然の偉大さに思いを馳せてみてください。

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