悔悛するマグダラのマリア (ティツィアーノ、ナポリ)

ティツィアーノ作『悔悛するマグダラのマリア』について

イタリア・ルネサンスの巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1550年頃に描かれた油彩作品『悔悛するマグダラのマリア』は、聖書に登場するマグダラのマリアを主題とした作品群の一つです。この絵画は、マリアが罪を悔い改め、信仰に生きる姿を描いており、その深い精神性と芸術的な美しさで観る者を魅了します。

マグダラのマリアとは

マグダラのマリアは、『ルカによる福音書』に登場する、イエス・キリストによって七つの悪霊を追い払われた女性です。彼女はキリストの磔刑と復活に立ち会った人物としても知られ、マルタの妹マリア、パリサイ人シモンの家でキリストの足に香油を塗ったマリアと同一視されることもあります。これらの要素から、マリアは瞑想的な苦行者、選ばれし者、そして悔悛する罪人という複合的なイメージを持つようになりました。

作品の特徴

この作品では、マグダラのマリアが夕闇迫る風景を背景に、悔悛の念に耽る姿が描かれています。金髪をなびかせ、身体は薄布で覆われ、香油の壺、頭蓋骨、書物が傍らに置かれています。これらの小道具は、彼女の悔悛の象徴として機能し、作品に宗教的な深みを加えています。フィレンツェのパラティーナ美術館所蔵の同主題の作品と比較すると、本作は背景に風景を取り入れることで空間の奥行きを出し、マリアの身体や衣服、髪、風景など、様々な要素が巧みに描き分けられていることが特徴です。エルミタージュ美術館所蔵の同主題作と図像が酷似していることも特筆されます。

同主題の作品と混乱の歴史

ティツィアーノは「マグダラのマリア」を生涯に渡って何度も描いており、それらの複製や異ヴァージョンの存在が作品の歴史を複雑にしています。ジョルジョ・ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』には、ウルビーノ公の「衣裳部屋」にあった最古の複製（トリエント公会議以前）の記録が残っています。また、フェリペ2世の依頼で制作されたバージョンは、ヴェネツィアの貴族が買い取ってしまったため、ティツィアーノはすぐに同じ絵をもう一枚描いてフェリペ2世に送ったというエピソードも残っています。

カポディモンテ美術館所蔵の本作については、美術史家のジョヴァンニ・カヴァルカセッレとジョゼフ・クロウは1567年の作と特定しましたが、近年では1547年にアレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿に送られたバージョンであるという説も有力です。

作品の来歴

この作品は、1644年と1653年のローマのファルネーゼ宮殿の目録に記録されており、その後パルマに移され、1725年にはリチャードソンによってパルマの最も著名な作品として言及されました。1734年、ファルネーゼ家のコレクションとともにナポリに移され、1765年まではカポディモンテ宮殿に、その後王宮に一時的に保管されました。フランス革命期にはフランス軍によって略奪されそうになりましたが、ドメニコ・ヴェヌーティによって回収され、一時的にナポリのフランカヴィラ宮殿に飾られました。ナポリ王国が成立すると、フェルディナンドはティツィアーノの作品を携えてパレルモに避難し、1815年にブルボン家が復権した後に、カポディモンテ宮殿に戻されました。現在に至るまで、この作品はカポディモンテ美術館の重要なコレクションの一つとして、人々に鑑賞されています。

まとめ

ティツィアーノの『悔悛するマグダラのマリア』は、芸術的な美しさだけでなく、マグダラのマリアの深い精神性と人間の内面を表現した傑作です。この作品は、歴史の中で様々な場所を巡り、多くの人々を魅了し続けており、その価値は今も色褪せることはありません。

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